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最後に嗤う女①
「あの女を追い返してくる」
病室から出ようとする正語を宇佐美は追った。
「お供します」
「一人でいい」
言外に含まれた、ここにいてくれの頼みを察して、うなずいた。
「承知しました。目覚めたらすぐに、ご連絡致します」
正語が出て行くと宇佐美は、秀一が横たわるベッドの脇の椅子に腰を下ろした。
長時間座り続けられるようにか、快適な座り心地の椅子だった。
「秀一君」
宇佐美は秀一の手を握った。
「未央君は無事ですよ。あなたの力なんですね?
あなたに手錠をかけて身動き出来ないようにした者の顔を見ましたか? 未央君はまもなくここに来ると思います。あなたを酷いめにあわせた者を教えてくれるといいのですが……。
あなたは美遙さんの死体を見たんですよね? そして、遺体が焼かれるところも——もしそうなら、実の母親の藤子さんが関わっているのは明白です……母親がなぜそんな酷いことを娘にするのかは、理解出来ませんが、世の中には色々な母親がいます……僕は、美遙さんの遺産が関係しているのではと考えています。
低俗な話をあなたのお耳に入れるのは、心苦しいのですが、藤子さんはあくまで美遙さんの養育者としての立場しかないのです。富雄さんには何人もの愛人がいますが、子供は本妻の子の聖麗さんと、藤子さんが産んだ美遙さんしかいません。富雄さんは、愛情は冷めたが、自分の娘を産んだというだけで藤子さんを屋敷に置いているのです。
美遙さんは、長い命ではありませんでした。それを知った藤子さんは自分の地位が危ういと、馴染みのホストである慈音さんと美遙さんの婚姻を目論んだようです——やっと富雄さんの承諾を得て、婚約にこぎつけた途端に美遙さんが亡くなってしまい、孫として可愛がっていた未央君に、美遙さんの身代わりを強要したのではないでしょうか?」
宇佐美は秀一の左の薬指に嵌められたゆるい指輪を外して、親指に嵌め直した。
「あなたがいるには、この世の中は欲まみれですね。望まないなら、このまま眠り続けて下さい」
病院の受付ホールでは、正語と聖麗が睨み合っていた。
「おまえ、何しに来たんだ!」
「私だって来たくは、ないわよ! 鷲宮家総代の賢者に言われたから、しかたなく来たのよ!」
聖麗の背後には、お供の慈音と真壁が困った顔をしていた。
「賢者ってなんだ! 笑わせるな!」
そう怒鳴った正語の腰に抱きつく者がいた。
「お父さん! お見舞いに来たよ」
「あら、あなた隠し子がいたの? バイだったのね」と聖麗。
「おまえ、誰だ?」と正語は振り返った。
野球帽を目深に被った少年は、小さく顔を上げた。
未央だった。
未央は囁いた。
「この中に犯人がいます。秀ちゃんに面通しさせて下さい」
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