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最後に嗤う女④
「僕、電動だと思ってたよ……」
鮎川は手動のかき氷機を回しながらボヤいた。
「タラタラやってないで、早く作れ!」
隣ではもう一台のかき氷機をハルが勢いよく回していた。
「僕は自分のペースでやらせてもらう」
「多聞! 食ってばっかいないで、鮎川と代われ!」
ハルは、シロップの全部載せかき氷を、しゃがみながら食べている多聞に怒鳴った。
「俺は休憩中だ!」
夏休み最後のイベント、ミックステニス大会当日。
秀一が入院したり、篤人の家に不幸があったりで、大会出場を見送ったいつものメンバーは、かき氷売りに奮闘していた。
店は大繁盛。
売り子をやっているメイド服姿の秀一と未央も大忙し。
会計係の篤人は、これで花火大会の赤字が黒にできると、にんまりしていた。
「怜司はどうした? 戦力になる奴がなんでいないんだ!」
「秀一の田舎からトウモロコシが送られてきたから寮で茹でてる」と鮎川。「それも売るらしいけど、原価ゼロの物をいくらで売る気なんだろ? このかき氷もせいぜい三十円でしょ? 二百円は良心的値段だけど、ボロ儲けだよね」
「口動かさないで、手を動かせ!」
「僕の父さんは恥ずかしいくらいにお金儲けが好きな人でさ、もう十分暮らせるだけの蓄えがあるのにもっと増やしたがるんだよ。家族のためかもしれないけど、そんな父さんの姿を見てきたせいか、昔からお金で幸せは買えないのにって、思ってたんだ」
「鮎川! 俺ばっか作ってるぞ!」
「よく車のナンバーに『8』付けてる人いるじゃない。お金出してああいうのを付ける人もどうかなって、思ってた」
「俺の婆ちゃんも、何かっていうと『8』にこだわってた」と多聞。「入院した時、病室の部屋番号に『8』がついてたから、縁起がいいって喜んでた」
「『8』の何が縁起いいんだよ」と、ハルはひたすらかき氷を作る。
「ほら、末広がりって言うじゃない」と鮎川は体を伸ばして、腰をたたいた。
「すえひろがりって、何だよ? 親父狩りみたいなもんか?」
ハルの言葉に多聞が吹いた。
「きったねえな! 俺の足にかけんじゃねえ!」
賢人たち中等科のテニス部員たちが追加の氷を運んできた。
「おい、鮎川と代われ」とハルは賢人に命じるが、賢人は素早く頭を下げた。
「すいません。怜司先輩からトウモロコシ売り頼まれてるんです」と賢人は売り子の秀一の近くに行く。
「チュウタ、可愛過ぎ。後ろから抱きしめていいですか?」
秀一の返答を待たず、メイド服姿の秀一を抱きしめた賢人は、鬼の形相のハルを横目に見て楽しんだ。
「賢人、シロップ間違えちゃうから、離れて」
秀一の言葉を無視して、賢人は秀一の耳元で、囁いた。
「鷲宮天空に関して、ご報告があります」
「僕も聞きたい」と秀一の隣に立つ未央が言った。
「承知。三人で今夜、寮に集まりましょう」
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