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最後に嗤う女⑤
寮内の未央の部屋はシャワールームにトイレ付きの特別室だった。
「部屋、広くっていいっすね」
トウモロコシを齧りながら、賢人が言った。
「バイオリンの練習するから、防音がしっかりした部屋にしてもらったんだよ」
「先輩のバイオリン、スゲーいいやつだって聞きました」
「藤子さんからのプレゼントなんだ……藤子さんの罪って、どのくらいになるんだろう……」
未央は賢人の隣にいる秀一を見た。
従兄弟の警察官から何かきいていないかと期待したが、秀一は顔も上げずに黙々とトウモロコシを頬張っている。
「秀ちゃんが、美味しそうに食べてるの初めて見た……」
「秀じいの作ったトウモロコシは最高だ!」と秀一がニッコリした。
「秀じいは、チュウタの名付け親なんです」と賢人。「自分の名前から一文字取っただけですけどね」
「秀ちゃんは長男なの?」
「兄さんがいたけど、生まれてすぐに本家の養子になったから、オレが長男みたいなもん。賢人はオレの兄さんの子供」
秀一に紹介されて賢人は頭を下げた。
「天空の話に入りますね。結論から言うと、あの家にそんな奴、いませんでした。祭壇っぽいもんがあって、黒い服着た人型の置物があっただけです」
「藤子さんの妄想だったの?」と未央は驚いた。「僕、挨拶したけど、たしかに向こうからの返事はなかった……」
「ところがそうとも言えないんですよ。みずほの本家に行って、昔の記録を調べてみたんですが、王来寺静江さん、篤人先輩のお祖母さんが若い頃に、俺たちの大叔母に相談に来てました。弟ではなく女の自分が家を継ぐべきだから親を説得してくれって。でも断られてます。災いの種を蒔くことになるから欲をかきすぎるなと、大叔母から諭されてます。ところがそのすぐ後に、鷲宮天空を名乗る人物が王来寺家に現れるんです。そして女系相続を守り、静江さんに全てを相続させるようにと言い残して煙のように消えたそうです」
どう思いますかと、賢人は未央と秀一を交互に見た。
「……その天空さんが、何十年ぶりかに復活して、美遙さんの遺体を生き返らせようとしたって、こと?」
「そいつ、インチキですよ」
未央の問いに賢人がはっきり答えた。
「記録によると、俺たちの祖父さんは、鷲宮の名前を騙る天空の正体を暴こうとしてました——まあその後、大叔母が亡くなったり、本家がゴタゴタしたので、うやむやになったようですけど」
「未央は、天空さんを捕まえたいの?」と秀一がきいた。
「僕は、藤子さんの罪が軽くなって欲しい。天空さんに操られていたことが分かったら、少しは有利になるよね」
秀一は首を傾げて、考え込んだ。
「美遙さんを殺した犯人を捕まえたいとは、思わないんですか?」と賢人。
「美遙さんは、僕の身代わりで殺されたのかもしれないけど……真壁さんの遺書には何も書かれてなかったし……やっぱり、事故だったんじゃないかな……」
未央も賢人も考え込む秀一を見た。
「未央」秀一が顔を上げる。「天空さんが警察に捕まるのは、時間がかかりそうだよ。美遙さんを直接殺した犯人はもう亡くなった。命令した人には、災いが起こる。今後は、とても辛い人生になるよ」
それだけ言うと秀一は、またトウモロコシを食べ始めた。
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