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最後に嗤う女⑧
——男子高校生の更衣室を盗撮するような六十過ぎのジジイが殺されても、全く胸が痛まない。
自分がそう言ったら多聞はどんな顔をするか。
冷たい奴だと言われるのか、おまえらしいと言われるのか……。
「——竹中は、あの日に真壁さんを駐車場で見た事を本人に言っちまったんだな……だから殺されたのか……」
「そうかもね」
「黒い服の女は、誰だったんだろ?」
「聖麗さんだったんじゃないの? 調査を依頼したんだし、直接君に会おうとしていたのかもね」
そうかと、多聞はまたカツカレーを食べ始めた。
「もっと食べたら? 今日は奢るよ」
「マジ?」
「秀一の退院祝いだから、奢るつもりでお金を用意してきた」
「ラッキー!」
多聞はメニューを開いた。
この人が単純な人でよかったと、鮎川はサラダを突っついた。
駐車場で真壁と会ったと竹中から聞かされた鮎川は、竹中にある事を吹き込んだ。
『先生、僕たちが見た黒い服の女は、きっと高辻倫太郎の奥様の聖麗さんでしょうね。実は僕、あの体育倉庫から聖麗さんが出てくるのを見ているんです。でも聖麗さんは友人の親戚ですから、黙っていることにしました。あの家に恩を売っておいた方が僕の将来に都合がいいですから——先生も身を守った方がいいですよ。高辻春琉彦君も、先生の盗撮を知っています。彼はきっと大騒ぎするでしょうから、その前に高辻家と接触して、手を打っておいた方がいいと思います』
鮎川の言葉を聞いた竹中が真壁に接触して、その結果殺害されたとしても、鮎川には、なんの罪悪感もなかった。
「オムライス食べよっと」と多聞がタッチパネルを手にする。「美遙さんは、やっぱ事故死なのかな?」
「かもね」
「すぐ病院に行けば助かったかもしれないのに。親が変な宗教やってると悲惨だな……身体燃やして蘇らせるとか、ありえないだろ……」
親ガチャに外れたんだねと言おうとしたが、彼の前で言うべきではないと、鮎川は黙ってサラダを口にした。
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