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最後に嗤う女⑨
ロールキャベツを食べ終えた宇佐美は、秀一のドリルの間違いを消しながら、事件に関する自分の見解を語った。
親切でやっているのか、誤りを放っておけない性格なのか分からないが(たぶん両方だろう)ページがどんどん白くなっていく。
(あいつ、起きてこれを見たら、がっかりするだろうな……)
だが秀一から文句を言われるのは宇佐美だ。
正語は勝手にやらせておくことにした。
「美遥さんは、なぜ殺されたのでしょう?」
「事故死だろ」
「本当にそう思いますか? 秀一君が殺しだと言ってるのに?」
正語は黙った。
「美遥さんは余命わずかでした。精神疾患も患っているような女性を誰が殺害しようとするのか……中学生の彼女を妊娠させた男の事も疑いましたが——」
「倫太郎か」
「はい。怖い奥様に知られる前に美遥さんの口を封じたのかとも思いましたが、どうも違うようです」
「あいつ、自分から告白したらしいな」
「美遥さんの過去を調べていたら、突然呼び出されました。当時は中学生だとはわからなかったそうです。背も高く、化粧も濃かったそうで」
「未成年だってのは、承知だったろ」
「どうしてこう、一人の人間にいくつもの不幸が重なるんでしょうね……」
ドリルの点検を終えた宇佐美は、冊子をまとめてテーブルの上に置いた。
「美也子さんを捕まえたい気持ちもありますが、美遥さんを殺した犯人……実行犯が亡くなったのなら、命令した人物を明らかにしたいです」
「——もし、殺人なら、未央君に間違われたのだと、思うか?」
「……恐らく」
「殺人現場から出てくる真壁を目撃したせいか?」
「いえ」宇佐美は少し困った顔で正語を見た。「……実は、未央君には自修
院の事件とは関係なく、狙われる要因があったんです」
なんだと訊くと、宇佐美は声を潜めた。
「彼がどうして、こんな中途半端な時期に自修院に転入してきたのか、僕はずっと気になっていたんです……未央君はこの春、県立のトップ校に入学しています。一学期に行われた試験も学年一番。友達も多く、順調に高校生活のスタートをきっていました。ところが彼は、非常にデリケートな問題を抱えていたのです——」
宇佐美は言葉を切った。
ドアが開き、秀一が顔だけを覗かせた。
「お邪魔しています」と宇佐美が笑って頭を下げる。
秀一もペコリと頭を下げた。
「正語、オレの下着どこに放り投げた? 見つからない」
正語は立ち上がった。
宇佐美も、ごちそうさまでしたと腰を上げる。「静江さんにお会いできるよう取り計らって下さい」と頭を下げて、腰をあげた。
「あまり深入りするな」と正語は嫌な顔をした。「上は幕引きを急いでる。あそこは、アンタッチャブルな家だ」
宇佐美はまた頭を下げて、玄関に向かった。
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