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薄暗い研究室の片隅で、ミサは苛立っていた。『光に追い付けない闇』に。そして同時に恐れていた。『光に追い付こうと縋る闇』に。
『産院』と名を冠してはいるものの、ホテルのラウンジかと見紛うような豪華な一室。一組の若い夫婦が隣り合ってソファーに座っている。
二人の前には薄いピンクのスーツを着込んだエリィと名乗る院長が、にこやかに微笑みながら大きなモニターを指し示して説明を続けていた。
「……ということでお二人のDNAを解析させて頂いた結果、この4パターンが『お子様』になりうる可能性が最も高いと算出されました。どうぞご確認の上、ご選択を」
4分割された画面に、それぞれの12歳前後まで成長したイメージ図と各種のステータス値が表示されている。
「おお。男の子3パターンに、女の子1パターンか」
夫と思われる男が画面に顔を近寄せる。膝の上で組まれる逞しい腕には高級ブランドの腕時計がよく似合っていた。
「ええ、いずれも御家の家督を継がられるに十分な素質を持っておられることを、このステータス値が示しております。それに容姿も、流石はお二人のお子様だけあって申し分ございませんね」
エリィ院長がにっこりと笑う。
「そうね、目移りするけど……このパターンBの男の子とかいいわよね。基礎体力はC+とそれほど突出してはいないけど、語学力B++で数学はA+。統率力もA++で4パターンの中で一番バランスがいいわ」
男性の妻である女性が目を輝かせてモニターを覗き込む。
「いいのかい? 君の希望は『テイトモータースの創業家に嫁がせるために女の子がいい』だったと思うけど」
心配そうに夫が気遣うが。
「大丈夫。また次に『作れば』いいじゃない。可能性はあることは分かったし、ライバルより年下の方が有利でしょ。まずは私たち帝運興産の跡継ぎをしっかりさせることを考えなきゃだもん」
「では……『パターンB』ということでよろしかったでしょうか?」
エリィが確認をとると、夫婦は揃って「はい」と頷いた。
「承知しました。それで……後は『オプション』の話になるのですが」
エリィが気持ち、小声になる。
「高いスペックを持つお子様はどうしても劣勢遺伝の発現率が上がる傾向にあり、難病に罹患するリスクが高まります。なので、基本プランの他に追加料金はご負担頂くことになりますが、そこは『調整』を……」
「ええ、それはお願いします。仕方ありませんもの」
若干困ったように苦笑いを浮かべる妻が、その提案を受け入れる。
「そうだな。完全に二人の遺伝子のみから生成できれば何の問題もないが、現代のデザインベビー時代にはそういう選択肢も受け入れざるを得ないさ」
夫も納得したようだ。
「人工子宮での『出産』は1年2ヶ月後だったわね? ああ、楽しみだわ! とても待ちきれない」
妻は嬉しそうに、エリィの目も憚らず夫に抱きついていた。
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