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「気味悪いって言やあ、一家心中があった家でもあるらしい」 「一家心中?」  虎太朗は、つい立ち止まり振り返っていた。 「ああ。甘露寺邸の主が、家族を殺して自害したって話だ」 「ひでえ話」 「ただな。甘露寺氏には綺麗な双子の姉妹がおったんだが、その二人の遺体だけは見つからずじまいだったらしい」 「だったら何で一家心中なんだ?」 「さあな。血に染まった着物が残っていたとか、そんな噂だ」 「親父。俺、仕事手伝うの今年だけでいいか?」  庭先に視線を投げた虎太朗は、踵を返すと小走りで軽トラックに向かった。その後ろを「そういうことは仕事見つけてから言え!」と言葉が追いかけた。  軽トラックのエンジン音が甘露寺邸を離れてゆく。庭先に咲く真っ赤な彼岸花が、絡み合うように揺れていた。 
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