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壱
「虎太郎! 仕事中は腹掛け付けねえかお前は」
「だって暑いだろ」
虎太郎と呼ばれた青年は、手拭いで首筋から胸を拭った。白いシャツは胸元が破け、そこから若く逞しい胸が覗いていた。
「お前なぁ。人に見られる仕事だってこと忘れるなよ。目にしたご近所さんから仕事を頂けることだってあるんだぞ。今じゃ庭木の手入れするようなお家さんは少ねんだからよ」
「もうわかったよ親父。ちょっと休んだら、ちゃんとやるよ」
梯子から降りた虎太郎は、水筒を取り出すと勢いよく呷った。口の端から溢れた水が首筋を流れ喉仏で弾けた。
虎太郎は手甲を外すと、また噴出した汗を手拭いで拭った。ふと視線を感じて縁側へと視線を向けると、風通しの為に開け放たれた屋敷の中には人影もなく、ただ庭先にある彼岸花が風にそよそよと揺れていた。
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