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「ミホー!!早く帰ろうよー…。」
友達に呼ばれても、私、佐藤ミホはその場から動けない。
靴箱には、“彼”がいるから……。
カバンを持ったまま、ジッとその場で地蔵のように固まる私。
「ねぇ、いいじゃん。エイジくんいても。……むしろ、ラッキーって思いなよ!!」
バン!と背中を叩かれるも、私はその場を動かない。
「だってさぁ、エイジくんが靴箱にいることわかってて行くのは、私がエイジくんのこと大好きーっみたいで嫌でしょ?」
そう。私はエイジくんが好き。大好き。
島橋エイジ。
私が幼稚園から中学生(今)までずっと一緒にいる人。
私は小学生の頃から好きなのに、エイジくんは見向きもしない。
どうしてだろう。他に、好きな人がいたりするのかな?
「ったく……。そんなこと、普通考えないの!!いいから行こう!」
むりやり連れて行かれ、その日はすぐに帰宅した。
私が下駄箱に行った頃には、エイジくんはもうそこにいなかった。
〜次の日〜
学級委員長さんが黒板の前に立ち、みんなにくじを引かせる。
これは、運動会の競技…二人三脚のペアらしい。
別に、誰でもいいけど……と、くじを引く。
番号は【8】。
あれ、不吉な数字引いちゃったな。
「8番の人ー。誰?」
私が手を掲げると、「あ、」と声が聞こえ、その方を見た。
すると、そこにはエイジくんが棒立ちしていた。
その手には、【8】と書かれたくじを持って。
私は一瞬、真顔になったものの、すぐにムスッとした顔をして言い放った。
「なんであんたとなの?サイアク。」
エイジくんはハッとした顔をして、ため息をついた。
「……まぁ、くじだし。二人でがんばろ。」
「しょうがないね。」
私達は、それから体育の授業時間や休み時間に二人三脚の練習をした。
しかし、私は兎も角、エイジくんがとても運動が苦手で、あまり練習は捗らない。
掛け声を出すのも恥ずかしいし、そもそも距離が近すぎる。
こんなに近寄ったら、まるで私がエイジくんのこと好きっておもってるみたい……、じゃなくて、思ってるのか…。
「、ミ、ミホ、掛け声しようよ。…ほら、いち、にっ…」
「……い、いちに……」
相手に負けるのも恥だから、私は掛け声を出すことにした。
最初は頬を赤らめながらしどろもどろにだったが、練習をしていくと恥じる気持ちなんてなくなった。
距離なんてものも気にしなくなった。
そんな、ある運動会練習期間のこと。
「ミホ。あのさ、」
水分補給を、とお茶を飲んでいると、エイジくんに声をかけられた。
私は汗を拭きながら「なに?」と応える。
「あの、…そんなに俺のこと嫌いならさ、ペア変わろうか?」
急な提案だった。
私、全然そんなこと思ってないのに。
むしろ、練習を続けてきて、前よりもっと好きになった。
「え、なんで?ペアはくじだから変えられないでしょ。」
「…いやなのに、やる必要ないと思って。」
結局ペアは変えないことになったけど、私はモヤモヤしたままその日を終えた。
次の日は土曜、休みだ。
朝早くに起き、友達とLINEをする。
そのネタはもちろん、エイジくんのことだ。
あの日のことを友達に説明すると、すぐに返事が帰ってきた。
《つまりミホは、好きになればなるほど冷たい態度をとっちゃうってことだね。》
だそうだ。
え、そうなのかな?
確かに最近は前よりとっても好き。
でも、冷たい態度を取ろうとしてない。
何も返信できずにいると、
《あれ?もしかして無自覚?》
と言われた。
うっそ。ウソ嘘。
私、そんなツンデレちゃん??
……これは…、私の恋は危機だぞ……。
〜翌日〜
また運動会の練習。
最近は息もあってタイムも縮まってたのに、あの事があってから最高タイムを更新できなくなった。
私は優しい態度を取ろうとするも、どうしてもそれができない。
どうしてだろう。
これはやはり、ツンデレってやつだな。
仲直りすることなく、運動会本番になってしまったときは、私でも少し焦った。
〜本番〜
待機テントの中、私は変な汗が流れていた。
どうしよう。このままだとダメだ。
負けるのはものすごくいやだけど、勝ちたいけど……。
自分から声をかけて仲直りするのは……無理だ…、。
ギュッと拳を握ると、自分の手汗が滲んで、余計緊張した。
パァンッッ
ピストルの音が鳴り響き、私の心は焦りに焦っていた。
前の人が走り切る。
横には私の恋しいエイジくん。
その横顔は、少し不機嫌そう。
「よーい…」
パァン!!
二人で一斉に駆け出す。
掛け声は小さいし、体も強張ってるしで全然本調子じゃない。
仲直り、結局できなかったな……。
私はそんなこともできないの…?
嫌だ、なんだか自分に負けてるみたい。
自分に負けない。今からでも仲直りしよう。
まだ間に合う。
今のところ、わたしたちは最下位。
でも、前の人との距離はそう遠くない。
大丈夫。私なら。できる。
私はスーッと息を吸った。
そして、吐くと同時に呟いた。
「絶対負けねぇ。……だよね?エイジくん。」
そう言うと、私は肩に乗ったエイジくんの手に自分の手を重ねた。
「はい、仲直り。」
すると、自然と足は軽くなる。
私はフッと笑った。
エイジくん、単純だなァ。
そういうところも好き。
「仲直り。」
〜完結〜
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