ついに

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   そのままサイファに連絡を取った。 『いよいよか』 「手配、つくか?」 『大丈夫だ。明日か明後日には例の場所に船を用意する。そっちは?』 「いつでも出られるよ。用意はしといたんだ」 『そうか……祐斗は?』 「今は混乱してるよ。いきなりだし」 『そうだよな。こっちは父上が受け入れ体制を作る。だから安心して連れて来てくれていい。人間だからと言って下手な目には遭わないはずだ』 「そうしてくれ、頼む。この先はタツキの携帯で連絡を取るよ。この携帯は処分するから」 『分かった』 「父さん、いつになったの?」  祐斗が不安な声を出す。 「明日か明後日、船が迎えに来るよ。心配するな、みんな一緒だから」 「……人間って僕だけだよね?」 「そうだよ。けど大丈夫だ、シバがちゃんと用意してくれているから」 「シバもいるの!?」 「いるよ」  少し祐斗が安心した顔をする。 「慣れるまでは誰かが必ず一緒にいるから。一人にはしないよ」 「うん……部屋から出なくてもいい?」 「そうしたければ。でも誰かが一緒だから。その時は表に出よう。それに旅行に連れてってやるよ。ずっと屋敷にはいない」 「ほんと!?」 「本当だとも」  これで少し祐斗は落ち着いたようだ。当然だ、ヴァンパイア一族の棲み処(すみか)で暮らすことになるのだから。安心できるわけがない。  セナは回り道をして携帯を粉々にして土深くに埋めた。 「タツキ、後はお前の携帯で連絡を取ることになってる。頼むな」 「分かった。じゃ、家はもう出るんだな?」 「時間までどこかホテルに行こう。家の方は大丈夫だな?」 「帰ったらすぐに準備するよ」  アキラが請け負ってくれた。冷蔵庫の中身だの、住んでいた者が分かるような物を焼却炉で処分する。帰ってきた時のために、家具はそのままだ。家はシバの財産だから調べが入ることもないだろう。  本格的に日本脱出となるのだ。  帰宅して、セナは祐斗に考え込む時間を作りたくなかった。だから次々と用を言いつけた。処分する物はたっぷりある。それをどんどん焼却炉に運ぶ。持っていくもの、例えばアルバムだとか大事にしている物などは荷造りをさせた。決してドアを閉めさせなかった。閉じこもるとどうなるか分からない……  そんな危機感をセナは感じている。  それでも考える時間が少なくなったおかげで、祐斗は比較的落ち着いて見えた。 「父さん、これも持って行っていい?」 「なんでも祐斗の要る物は持って行って構わないよ。部屋はどうする? 父さんの隣の部屋でもいいし、一緒にいてもいいし」 「一緒がいい! ……一緒がいいよ、父さんと」 「じゃ、そうしよう。お前がしたいようにしていいんだ。俺もタツキもアキラもシバやサイファもいる。俺の父上にも紹介するよ。よく物を知っている穏やかな性格なんだ」  母をどうしよう、セナの一番の心配はそこだ。 (接触させないようにしよう。なにされるか分かったもんじゃない) そんな不安を抱えている。捕らえられた母の処分をどうするか。それがセナが国に帰ってから一番目の仕事となるのだ。  
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