屋敷へ

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   フランスは不思議な国だった。自国に誇りを持った気分屋たち。驚くほど時間にルーズで自己主張が激しい。時にブラックジョークに近いものもあるがユーモア好きだ。 「時間を守らないのが普通って、なんだかやりにくい」  車の中で祐斗は零した。最初に乗ったバスは20分待たされた。レストランでも給仕はのんびりしたものだ。 「フランスじゃパーティーなんか時間通り行くとマナー違反だからね! 日本じゃ考えらんないよ」  アキラが高らかに笑い、タツキは苦笑している。セナも釣られて笑った。 「そうなんだよなぁ、でも仕事の契約や会議なんかは時間ぴったりを守るんだ、不思議な国って言われればそうかもしれない」  デザートの濃厚なアイスクリームを口にしながら祐斗は熱心に聞いた。 「後は? フランスのこともっと知りたい!」 「そうだな……例えばこのレストラン。入った時こっちから『ボンジュール』と挨拶したろ? それが普通なんだよ。接待する側って言う感覚が薄いから客側が先に挨拶したりする」 「じゃ、入る時には気をつけないとだね」 「フランス人は気まぐれが多い。今日機嫌がいいからって明日もそうだとは限らない。だから振り回されることもあるんだ。悪いところがあっても謝らなかったりするし」  日本には無いお国の違い。けれど人に冷たいわけじゃない。困った顔をするとすごく気にしてくれるのもフランス人の特徴だ。 「暮らすのにはすごく楽そうだね!」  これにセナは返事をするのを躊躇った。フランスで暮らす、その考え方じゃ屋敷ではいられない。タツキがセナに目配せをする。 「祐斗、俺の屋敷では……そうだ、ドイツに近いと思った方がいいかもしれない。上下関係がはっきりしているからあまりフレンドリーじゃないんだ。タツキみたいな連中が多い」 「俺を引き合いに出すなよ!」 「お前が一番ぴったりだからさ」  祐斗の顔が曇った。 「でもお前は大事にされるよ、(あるじ)の賓客だから。それは安心していい。それに、慣れてくればきっと打ち解けられる」 「うん……」  アキラがぽんっと祐斗の肩を叩いた。 「俺みたいのだって中にはいるからさ。安心しろよ」 「うん」  祐斗はまた不安に包まれていた。本当にうまくやっていけるのだろうか、と。  屋敷から迎えが来るまで、フランスの空気を存分に味わった。色とりどりの家屋。華やかな街並み。祐斗は青い空を見上げながら気づいたことがある。空を仕切るものが無いのだ。 「ね、電線は?」 「ああ、地下だよ。電柱も無いだろ? 観光を重んじる国だからそうやって街の景観を守ってるんだ」  国を挙げての観光への取り組み。そんな徹底した一面もある。祐斗には新鮮な驚きばかりの国だ。  屋敷から車が迎えに来た。 「セナさま、お久しぶりでございます」 「リュカ、君が来たのか」 「ええ、その(ほう)がそちらの……」 「祐斗か?」 「ええ、ユウトさまにも良いだろうとアルフレッドさまのお考えで」 「良かった! 俺も君の方がいい。戻って来た早々固っ苦しい顔を見るのは御免だ」  リュカは笑った。雰囲気がちょっとアキラに似ている。 「変わってませんねぇ、セナさまは。ユウトさま。私があなたのお世話係になります。なにかお困りのことがありましたらいつでもお申し付けください」 「リュカはいいヤツだよ。祐斗、良かったな!」  知らない内にひどく緊張していた祐斗は、アキラの笑顔で少し気を抜くことが出来た。 「お世話になります。よろしくお願いします」  頭を下げるとリュカが驚いて腕を掴んだ。 「頭を下げちゃいけません。あなたは大切なお客様なのですから」 「もっと砕けた感じでいいよ。祐斗は俺たちとは違って繊細なんだ。敬語も無しだ」  セナの言葉にリュカは困ったような顔をする。 「難しいことを…… そういうことが苦手なのを知ってらっしゃるくせに」 「ついでに俺にも頼む。タツキやアキラを見ろよ。ひとっつも俺を敬っちゃいないだろ?」 「だから、俺たちを引き合いに出すなって!」  タツキは苦り切った顔をしている。日本で暮らしているとこうなるのだ、上下関係など言っていられない。  
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