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「セナ、帰って来てくれて嬉しいよ」
コーヒーを置きながらサイファが言う。
「祐斗のためだからな」
「早速ご婦人たちが色めき立ってるよ。今度ばかりは逃げられないぞ」
セナは顔をしかめた。
「仕方ない、そう思ってる」
「父さん、結婚するの!?」
「しょうがないんだ。跡取りを作れば俺は用無しになるから早く解放されたいんだよ。大丈夫、この部屋から出て行くつもりは無いから」
祐斗の心配を見越してそう話した。そんな”儀式”をこの部屋でするわけにはいかない。
口には出さないが祐斗は一つ心配していることがある。純血種が生まれたとして、その生まれた子どもが優秀でないと判断されたらまた子どもを作ることになるわけだ。その間、どれだけの時間が、年数がかかるのだろう。そうやって出来た子どもに父の愛情がそそがれるのではないだろうか、なにしろ実の子どもなのだ。そうなれば自分の居場所は……
そんな祐斗の心配がセナに分かるわけがない。
「どうした? 元気ないな」
サイファが祐斗の様子に気づく。
「……聞きたいことがあって」
「どんな? 答えられることなら答えるよ」
サイファの声が優しい。
「生まれた子どもが純血種で……その子が優れた純血種だって分かるまでにどれくらいの年数がかかるの?」
「生まれてすぐに分かるんだよ。遺伝子検査をするからね、その段階で能力が分かるんだ」
「そうなんだ……」
生まれたらすぐに分かる。けれど、一回の出産にかける望みは少ないのだろう。だからセナの父親のアルフレッドは何度か結婚を繰り返したのだと思う。そこに本当に父の思っているように愛情は生まれないんだろうか……
「なにが心配だ? 時間は少しかかかるかもしれないけど生まれさえすれば祐斗とゆっくり時間を過ごすことが出来るから」
思わず祐斗は叫ぶように声を出した。
「それっていつ!? いつ頃の話!? 自分の子どもでしょ? どうして可愛くなるって思わないの!?」
「祐斗……」
「ごめん、父さん。僕自分の部屋に行くよ……ごめん、変なこと言って」
「祐斗!」
祐斗が部屋に入って声を失ったセナにサイファは静かに話し始めた。
「祐斗は自分なりの現実を見たんだと思うよ、ここに実際に来てみて」
「現実?」
「知らないんだろ? ヴァンパイアの子どもが生まれるまでの実態を。人間は生まれるまでに10ヶ月かかる。ヴァンパイアは3ヶ月だ。その差を知らないからうんと時間がかかるって思ってるんだよ。それに肝心のこと。デリケートな話を知らない」
「なんだよ、デリケートって」
「一夫多妻制ってことさ。ひょっとして生まれてから結婚を繰り返すって思ってるかもしれない。そんな話、したことないんだろ?」
セナが赤くなる。
「出来るか、そんな話」
「だからだよ。だからどれだけ待たされるのか分からないと思ってる。ただでさえ純血種が生まれるかどうかが分からないんだから」
「それは……」
「セナ、言っておく。安易に祐斗にすぐに自由になれるなんて言うな。自分はお前に拾われただけだって意識があるんだ、だから実の子どもが出来た時の心配をしてる。自分の居場所があるかどうか…… 祐斗には大問題だって分かってやらないと」
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