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セナには疑問が一つ浮かんでいた。
「父上」
「なんだ?」
「母上は? どこかに出かけているのか?」
「アンジェリッタか…… それについては後で部屋に来い。話がある」
「……分かった」
父に渋い顔が浮かんだからいい話のような気がしない。けれどまさか母が大罪を犯したとは思わなかった。
ディナーは無事に終わった。
「毎日、食事はこうやってするの?」
祐斗にはそれが気がかりだ。タツキが教えてくれた。
「滅多にないさ、こんなこと。祝いとか大きな出来事があった時だけ。食事は自分の部屋でするか、広間なんかよりもっと小さな部屋で内輪でするんだ」
「内輪って、父さんとかタツキやアキラってこと?」
祐斗が期待を込めて聞く。アキラが肩を組んできた。
「そうそう。その方が気兼ねなく腹いっぱい食えるだろ?」
「うん!」
セナが祐斗の背中に手を置く。
「俺たちにしたってあんな食事は御免だ。食った気がしない」
祐斗は笑った。ようやく祐斗らしい表情が戻って来た。
「一つ注意することがある」
サイファだ。
「誰が呼んでも、ついて行かないこと。俺たちとアルフレッドとシバだけだ。それ以外はだめ。いいね?」
祐斗は深く頷いた。もちろんそんな誘いには乗りたくない。
「僕に用がある人なんていないでしょ?」
「まあ、そうだけどね」
サイファは少し不安を感じている。なにしろ祐斗は人間なのだから。
部屋に戻る途中でセナが立ち止った。
「父上の所に行ってくる。誰か祐斗のそばにいてやってくれないか?」
すぐにアキラが返事をした。
「俺がいるよ。長くかかるのか?」
「分からない。母上のことで話があるそうなんだ」
ここでアンジェリッタの状況を知っているのはサイファだけだ。しかしサイファは余計なことを言わなかった。それをセナに告げるのはアルフレッドの役目なのだから。
「祐斗、アキラと部屋に戻っててくれるか?」
「うん」
「じゃ、頼むよ、アキラ」
セナはアルフレッドの部屋に向かった。
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