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アンジェリッタはセナの顔を見て喜んだ。
「セナ! 帰ってきたのね?」
「母上、お久しぶりです」
「まあ! 顔を良く見せて」
頬を包む両手をそっと引き離した。
「なぜマデリーノを殺したのですか?」
「帰って来た早々、そんなことを…… それはあなたのためよ、セナ」
「俺の?」
アンジェリッタは昂然と顔を上げた。
「後継者はあなたでなければ。余計な芽は早い内に摘まないと、と思ったのよ。全てはあなたが」
「やめてくれ! そんなことを聞きたいんじゃない!」
「セナ、」
「母上はご自分のしたことが分かっているのか? マデリーノはいい兄だった。思いやりがあって心が広く、俺なんかよりずっと後継者に向いていた。同族を、まして身内を殺すのは大罪だ。結果は分かっていたでしょう!?」
「でも! あの存在は許せなかった、あなたが全てなのよ。分かるでしょう?」
「俺のせいにするな! あなたは……ただの同族殺しだ……」
「セナ……」
セナは立ち上がった。苦しい思いに包まれる。もうこれ以上、話を聞きたくはなかった。
処刑の方法には頭を撃ち抜く公開処刑もある。だが。
「あなたを……処刑する。誰にも触らせないから……俺が手を下すから……母上、俺が」
セナはアンジェリッタに近づいた。アンジェリッタが低い声を出す。
『セナ、座りなさい』
「母上、無駄だよ。俺には効かない」
『セナ! 私を逃がして!』
「母上、サヨナラだ。『首筋を俺に差し出せ』」
セナの強い催眠にかかってアンジェリッタは横を向いた。セナはアンジェリッタに覆い被さった。細い首筋に牙を向ける。たとえ抵抗してもセナの力には敵わない。セナはアンジェリッタの血を飲み干した……
「セナ様。確かに見届けました。これでリデロー家も安泰です」
ローグを殴り倒したかった。罪を犯したのは母が悪い。けれど自分は母親を殺したのだ。
父に報告に出向く足取りが重い。
「俺が……母上を処刑した」
言葉少なに父に告げる。
「そうか」
アルフレッドの言葉も短かった。
「父上は……辛くは無いのか?」
「お前の母親だ、辛く思うよ。だがこの立場では一族をまとめる方が優先だ…… 統主は常に決断を迫られる。お前が処刑しなければリデロー家は終わっていただろう」
マデリーノの死は辛かった。怒りでいっぱいだった。それは今でも自分の心に刺さった棘のようなものだ。けれど母を吸い尽くした自分の行為もおぞましい……
「セナ、後悔はするな。お前はするべきことをした。それだけだ。公表は私の方でするからゆっくり休んでくれ」
セナは返事をすることもなく、父の部屋を出て行った。
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