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祐斗がヴァンパイアではないことが今はセナにとって救いだった。一族のしがらみのない祐斗だからこそ心に思うことを口にできる。
「俺はいい息子じゃなかった……地位や格式を重んじる母上が嫌いだった。けど……けど……」
母に逆らって生きた時間を、悔いがあるかと聞かれればそれは無い。そう言い切れることが苦しかった。両手の中に沈む顔。そんな父を見ていられず、祐斗はずっと父を抱きしめていた。
「父さん、シャワー浴びてきなよ。少し気分が落ち着くよ」
祐斗は少々強引にセナをバスルームに行かせた。少しでも気持ちを和らげてほしかった。
セナがバスルームに入ってすぐ、電話が鳴った。電話はセナのデスクの上だけにある。
「はい」
『祐斗か? あのな、明日なんだけど』
タツキだ。珍しくそこで言葉を切っている。
「明日、なに?」
『いや…… 明日の食事、俺たちはそっちに行くのやめておくよ』
「なんで? 何か用があるの?」
『祐斗は知っているのか? その……セナが自分の……』
「……お母さんの処刑の話? さっき……父さんから直に聞いたよ」
『そうか…… アルフレッド様から緊急呼び出しを受けてみんな広間に集まったんだ。処刑が公表されたんで今ちょっとした騒ぎになってる』
「騒ぎ? どんな!?」
『……まあ、言いたいヤツはあれこれ言うから』
苦しんだ末の行為を何も知らずに取り沙汰されている…… 祐斗はカッとなった。
「タツキは? タツキはどう思ってるの? ……そのせいで明日来ないって言ってるの!?」
『アキラからセナが殺気立ってるって聞いたよ。そんな時に俺たちが行っても』
「どうして!? こんな時だから来てほしいよ! 父さんを一人にしないでよっ」
『祐斗……』
「父さんは苦しんでるんだよ! したくてしたんじゃない、一族のためだからって…… ひどいことさせられたのは父さんじゃないか、なんで分かってくれないの!? 聞かせて、みんななんて言ってるの?」
『聞きたいのか?』
「知りたい。みんながどういう人たちなのか。父さんは一族を守るためにお母さんを処刑したんだって言ってたよ。なのになんでいろいろ言われなきゃならないの?」
『それは分かってるんだ。セナが手を下さなきゃそれこそ一族の運命だってどうなったかって。そうしなきゃならなかったことだって分かってる』
「それなら、」
『だからと言って自分の母親を殺せるのかって…… 無責任な言い様だと思ってる。他人のことだからなに言ってもいいのかって俺だって頭に来てるさ』
「なのに明日は来ないて言うの? ひどいよっ、さっきだって……さっきだって泣いてたのに……」
セナの辛さが伝わったのだろう、タツキは言葉を呑み込んだ。
『……悪かった。明日はいつも通り行くよ』
「タツキ……」
『すまん、本当に。こんな時こそそばにいるべきなんだよな。俺たちは家族なんだから』
「うん……うん、お願い、そうして。じゃなきゃ父さんが可哀そう過ぎるよ……」
『分かった。アキラともちゃんと話しておく。それじゃな』
祐斗は悲しかった。父のした行為は必要なことだったと聞いたのに、そのせいでまるで父が悪者のように思われている……
(なんで? そのお陰で一族は助かったんでしょう?)
自分が眠った後、父は一人で何を考えるのだろう。今夜は父に眠って欲しい。心からそう思った。
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