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決断
「父さんが眠るまでこの部屋にいるよ」
祐斗はそう切り出した。
「祐斗、俺は今日は眠るつもりが無いんだ」
「だめ! 今日は眠ってよ。お願い、少しでもいいから」
祐斗の気持ちが痛いほど伝わってくる。セナは儚げな微笑みを浮かべた。
「ありがとう…… でも俺は大丈夫だ。シャワーすっきりしたよ。こんなことで躓いてちゃ後継者になんかなれない。もっと強くならないと」
「そんなのいいじゃない! 後継者にだってならなきゃいいんだ、父さんがなにもかもひっかぶるなんて」
「……そうはいかないんだよ、祐斗。マデリーノがいない今、責任は全部俺にかかってくる……逃げるわけにはいかないんだ」
セナはある決意をしていた。それを祐斗に告げるのは苦しいが、全てはそれで丸く収まる……
「祐斗、俺は結婚する」
「けっこん、するの? いま?」
もっと時期を遅らせるつもりだった。こんなにすぐにこの話を持ち出す気は無かった。
「今だから。新しいニュースは古いニュースを払しょくする。まして俺の結婚なら屋敷中が沸き立つ」
「結婚したら……僕はどうなる? どうしてたらいいの?」
「なにも変わらないよ。なにも、だ。相手と一緒に住むわけじゃないし、人間の結婚とはちょっと違うんだ。束縛はされない」
日本での結婚しか知らない祐斗には、何も変わらない結婚というものが想像できない。
「ねぇ、ならなにが違うの? 教えてよ」
「なにがって、その……」
子どもが生まれるのに3ヶ月しかかからないことはもう伝えてあるが、一夫多妻制については言いにくい。
「まぁ、その……ちょっと違うところがあると思ってくれれば……」
「言いにくいこと?」
「……プライベートなことは聞かないでくれないか? 俺にだって慎みはあるんだから」
今の返事を聞いて祐斗は余計なことを考えてしまった。
(子どもが出来るまで何回も何回も……? わ、)
思わず頭を振った。17歳。多感な時期。周りとそう接していなくても、小説やらネットの世界で知っていることはある。
「ご、ごめん。もう聞かない」
親子で少しいたたまれない気持ちになる。セナが気分を変えるようにしっかり声を出した。
「もう寝ろ。お前だって慣れない一日を過ごして疲れてるだろう?」
「でも父さんだって」
「分かった。俺も寝るから。だからお前も寝てくれ」
「本当に?」
「本当に。ちゃんと寝るよ」
父の言葉を信じるしかない。祐斗はもう一度セナに抱きついた。
「父さんが眠れますように。おやすみなさい」
「ん、おやすみ」
祐斗が部屋に引き取って眠ったことを確認するとセナは部屋を出た。父、アルフレッドに結婚する意志を伝えるために。
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