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心細くて
タツキとアキラは部屋を出て行った。外に使用人が待っていたらしく、自分たちの部屋に案内されて行った。残ったのはリュカだけだ。
「荷解きのお手伝いは要りますか?」
「大丈夫です」
「私の部屋は真向かいにあります。あの電話でいつでもお声かけ下さい。番号は要りません。セナ、後でまた伺います」
セナが頷いてリュカは出て行った。
「疲れたろ、祐斗。荷物整理はあとでいいよ。こっちに座れ」
セナの部屋のソファに座る。
「しまった、飲み物を頼めば良かったな。待ってろ」
窓際のデスクの上にある電話を取る。どうやらセッティングされているらしく、ダイアルは回さないようだ。
「俺。悪い、リュカ。飲み物を頼む。俺にはコーヒーと祐斗にはアイスティーを」
電話を切ると祐斗の隣に座った。
「あの電話を取るとリュカが出る。他のところに掛けるなら番号を押すんだ。後でタツキとアキラの番号を聞こうな」
「うん」
「部屋の印象はどうだ? なんとかやっていけそうか?」
「もっと豪華なのかと思ってた。これなら居心地良さそうだよ」
「なら良かった! サイファが用意してくれたんだ」
「サイファが? 会えるの?」
「後で来ると思うよ。ランチはこの部屋でみんなで一緒に食べよう」
「ホント!?」
セナがにこっと笑う。その顔は、若々しい顔だ。見た目、30歳過ぎくらい。祐斗がじっと見るのに気が付いた。
「あ、顔は元に戻したんだ。髪は黒いままだからいいだろ?」
「父さんって僕を拾った時が25歳で、人間の年齢では今は42歳だよね。でもヴァンパイアの年齢では?」
「552歳になるかな。どうして?」
「……すごく年寄りみたい」
「おいっ、失礼だぞ。俺はまだ若いんだから」
「そうなるの?」
「さっきのローグ、幾つくらいだと思う?」
「……1100歳くらい」
「残念! 確か620歳っくらいだよ。ずっと老けて見えるだろ?」
祐斗は目を丸くした。セナのちょっと上ということだ。
「この屋敷にいると年寄り臭くなるんだよ。閉じられた空間にいるから」
そうなのかもしれない。閉鎖的で重苦しい城……
「父上……アルフレッドが引退すれば俺の世代だろ? そしたら城を作り変えるつもりなんだ。もっと近代的にね」
「ビルみたいにしちゃうの?」
「そこまではしないけど、今よりはマシになるようにする」
「アルフレッドの引退って、いつ頃なの?」
「1400歳頃だよ。そしたら俺が後を継ぐ」
その頃には自分はいないだろう…… セナは祐斗がそんなことを考えているなどと思ってもいない。父の人生の中で自分はどんな存在になるのだろう…… 祐斗の目が潤む。
ノックがあったから祐斗は立った。父に顔を見られたくない。
「はい」
「リュカです。お飲み物をお持ちしました」
ドアを開けると、そこにはリュカだけでは無くてサイファも一緒にいた。
「サイファ! お父さん、サイファだよ!」
「久しぶりだな、祐斗。元気そうだ」
こんな城で見知った顔を見るのが嬉しい。祐斗はサイファに抱きついた。
「よしよし。心細かっただろ? 部屋はどうだ、気に入ったか?」
「うん……うん、気に入ったよ。ありがとう、サイファ」
「良かった! リュカ、後はいいよ。俺がやる」
「はい、お任せします」
サイファがトレイを引き受けた。自分の分のコーヒーもある。
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