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正確に、覚えていないだけだ。多分、中学校1年生の夏頃だったのだと思う。秋にある体育祭で、あなたを目で追いかけ回した記憶が、未だ鮮明に残っていた。私は同じ部活の先輩が好きだった。中学、高校と同じ学校で同じ部活だった。もう名前の漢字も覚えていないから「あなた」と書くことにする。あなたは客観的に見れば、容姿は中の上と言ったところであり、特別良かった訳でわない。それに、身長に関していえば私よりも低かったのではないだろうか。でも、それは入学したばかりの頃の話で、おそらく夏頃には、身長も、ほんの少しだけ抜かされていたような気がする。今思えば、なぜあなたを好きになったのか分からない。否、分かるのだ。だが、理解し得ない。恐らく、青春に浮かれていたからだ。
部活は弓道部だった。弓道部なのに、弓道に関しての深い思い出はあまり無い。弓道というものは他の武道に比べて体力を必要とする競技では無いが、どういう訳か、2週間に1回、トレーニングの日があった。トレーニングの日には走り込みと筋トレ、ストレッチをするのだが、とりわけ部員からは走り込みが不評だった。皆、運動部なのに体力がない。その現状を打破しようと、あなたが1年生の時に提案したらしい。それに先生が大賛成してトレーニングが始まったという。他の先輩からその話を聞いた時、私はあなたが輝いて見えた。1歩、先を走っている、と思った。私は運動が得意な方だ。それは小さい頃からのことである。だが、あなたの方が走るのが速かった。男女差というのもあるが、純粋に早く追いつけるようになりたいと思って、西日に当たってできたあなたの影を、必死に追いかけた。最初はその差がどんどん縮んでいく。高校に進学後も前に書いたようにあなたも私も同じ高校、弓道部だった。そこでは、元々トレーニングの日が週に1回あった。最初は中学生の時と同じように、段々と走り込みの差が縮まっていた。しかし、ある日を境に、差が縮まらなくなった。結局、高校最後のトレーニングの日までその差が完全になくなることは無かった。
勉強も、あなたの方が少しだけできた。学年の差ではなく、そもそもの学力の方だ。分からない問題はあなたに教えてもらったこともある。あなたに追いつきたくて、必死で勉強した。大学では、結局、違うところに進学した。最初は同じ大学を目指していたのに。
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