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若松ユウキ、なんだか今日は絶好調な気がする。
その根拠を述べよう。
まず朝アラームが鳴る前に目覚めることができた。
すっきりした目覚めで、実に気分が良い。
弟を起こさないようこっそりベッドから忍び足で出て、まずは目を覚ますために洗面所へ行ってうがいをする。
鏡の前に立つと、寝起きだというのに俺の目はしっかり開いていた。うん、良いことだ。
「あれ?」
目はともかくだが、少し視線を上に向けると、そこにはそびえ立つ少量の髪の束。
芸術点高いな、これは。思わず笑みが漏れる。
自分の寝癖で今日初笑い。うん、朝っぽくて良い。
それから朝ごはんの支度をするため、キッチンに入る。
目玉焼きを作るために、卵を三つ割った。
なんと二つ双子だった。これはレンとケイに双子を食べさせなければ!
三つ子のうちの二人が双子を食べる。
もしかしてそれって、共食いなのでは?
……寝起きの思考回路ヤバいな、さっさと朝ごはんの支度しちゃおう。朝ごはんでも食べたら覚醒するだろう。
なかなか良い感じにできた朝ごはんを並べ、ついでに写真を撮っておく。
後でストーリーにでも載せようかと思ったけど、さすがにこの写真見せびらかすのは意識高すぎてだるいなと思ったのでスマホをしまった。俺はインスタのストーリーが米粒のような男にはならないと決めているのだ。
朝ごはんは冷めない内に食べた方が良い。時間的にもちょうど良いし、弟たちも呼んで来よう。
寝室に来て、三回ノックをする。無反応なことを確認してから、俺はドアを開けた。
「二人とも、朝だよー。今日も学校だし早く起きよう? 朝ごはん用意してあるから」
俺がベッド脇に立って声を掛ければ、寝起きの良いレンがぱちっと目を開けて起き上がる。
さすがサッカー部。朝練が多いだけあって、早起きは得意らしい。
レンは目を軽くこすった後、俺のことを上目遣いをするかのように見上げ、こてんと首を傾げた。
そして、ふんわりと微笑みを浮かべて一言。
「……ん、兄さんおはよ」
「寝起きなのに可愛い!」
なんだこの子、寝起き早々爽やかなイケメン顔しているのにめちゃめちゃ可愛いな!? 少し舌足らず気味な口調でふわふわしてるのに意識はハッキリしているし、これはもう天使……! 紛れもなく天使……!!!
「こえでか……」
「ごめん、それはそれとして起きて~!!」
「ケイもおはよ。寝起き悪いんだから早くご飯食べてしゃきっとしてね」
「ん~……」
反対にケイは枕を抱きしめて目をしぱしぱ瞬かせている。んんんこっちも可愛いな~~~!!! ただでさえ口数が少ないのに、さらに語彙まで幼くなるの本当に可愛いしそのセリフですらちょっと辛辣なの非常に萌えポイントです。
それからケイを起こすレンがあまりにもお兄ちゃんすぎて、俺の毛穴という毛穴から涙が零れるかと思った。良すぎる。可愛い。
まぁレンがそう言ったものの、素直に起きてくれたら苦労しないわけで、無理やりケイを起こして二人がかりで洗面所へ連れて行く。
「ところで兄さん、今日の、ふふっ、寝癖すごいね?」
「笑い声が隠しきれてないよレン……まぁ笑ってくれるなら良いか」
「あいかわらずちょろいな、ふわぁ……」
レンが鏡に映った俺のことを指しながら、くすりと笑みを零した。レンのこの控えめな笑顔がとても可愛くて好き。朝からずっと可愛い。意味分かんない。可愛すぎてキレそう。
それに対するケイは、うとうとしかけながらも頑張って顔を洗っている。しかし言っている言葉は的確である。この子も可愛いね本当に。俺はそろそろ可愛すぎてどうにかなりそうで耐えられないんだけど、俺をどうにかしたいんですか??? ごめん何言ってるか分かんないね、俺も分かんない。朝っぱらから鬱陶しいな俺は……。
ようやく意識が先程よりもはっきりしてきたケイの手を引いてリビングへ向かい、ケイを椅子に座らせた。レンも隣の席へ座ったので、俺はレンの向かいに腰掛ける。
レンはテーブル上に置きっぱなしにしてあったテレビのリモコンを手に取ると、ニュース番組を付けた。
へぇ、今日はそこそこ気温高いな。まぁもう五月も終わりだしな。
今日の星座占い、牡牛座は「新しい出会いがあるかも!?」とのことらしい。全寮制男子校で新しい出会いも何も無くないか? と思っていると、レンも同じことを思ったのか少しテレビ側に傾けていた体をこちらへと戻した。
じゃあそろそろ食べるか。
「「「いただきます」」」
特に示し合わせたわけでもないのに自然と揃った声(約一名ふにゃふにゃだったけど)が嬉しくて、俺が何となく顔を上げれば視線に気づいたレンも同じように顔を上げてくれる。
レンは俺の考えていることを読み取ろうとしているのか思案顔をしているが、結局分からなかったのか一つウィンクをしてまた朝ごはんを食べ始めた。
……いやちょっと待っっって??? 分からなかったからってファンサしてくれるのあまりにも俺の需要分かりすぎでは??? ファンの心理を理解しすぎているから今すぐ君はアイドルになった方が良い。……いや、むしろだから親衛隊があるのか?
そんなことを真剣に考えていれば、ケイが目玉焼きにソースをかけながら「ふたご」と一言呟いて少し笑った。
ねぇあっちでもこっちでも君たち可愛いことしないでくれない!? 俺の目が足りないから本当に! 何でそんなに言葉に言い表せないほどの可愛いことをするのかな!?
さすがに今のはレンにも特大ダメージが入ったのか、サラダに大量のドレッシングが降り掛かっている。塩分過多。
俺はレンの手からドレッシングを抜き取り、俺のサラダにドレッシングを注ぎ、キャップを締めてレンのサラダと俺のサラダを交換した。
それから何食わぬ顔でサラダを頬張ると、ようやく戻ってきたレンが不思議そうな顔をしている。
自分の手に持っていたはずのドレッシングをテーブル上に発見したのだからそりゃそうだろう。
しかし、自分のサラダに問題なくドレッシングがかかっているのを見て特に気にしないことにしたらしい。
細かいことを気にしないマインドは大事である。
俺は塩味の強いサラダを味わい、絶好調な気がする今日に期待をした。
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