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「あぁぁぁ! もうどーすりゃいいわけ!?」
べしんとタオルを床に叩きつけ、俺は自分の頭を抱えた。
朝ごはんを食べ終えて歯磨きをした弟たちは、制服が自室にあるため戻らなくてはいけない。
後でいつも通り合流する約束をし、弟たちを玄関先まで見送ったのは数分前の話である。
俺は俺で、朝一番から弟たちの顔を見れたことにテンションは爆上がりしていたため、つい鼻歌を歌いながら支度をしていた。
ネクタイを締め、お気に入りのいつものカーディガンに袖を通し、さぁ髪をセットしようと洗面所に立つ。
ここまでは良い。
問題はここからだった。
「何この寝癖全然取れないんだけど……」
先程笑ってしまったこの寝癖。
前髪の一部がみょ~んとでも言いたげに跳ねている。ふざけているのか?
俺は寝癖がつかないよう、髪の手入れはきちんとしていたはずなんだけど。
実際、今まで寝癖はついてもせいぜいちょっと毛先が跳ねる程度だったし、セットの過程でなんだかんだ収まっていたのだ。
しかしこの寝癖、マジで取れない。
「ワックスも蒸しタオルもアイロンも効かないって詰んでね!?」
寝癖は強固なもので、ビクともしなさそうだ。腹立つなこいつ……!
最初からシャワーでも浴びれば良かったのだろうが、今更そんな時間はない。
だからと言って、こんなきもい寝癖をそのまま放置は論外だ。ありえない。
と、なるとだ。
俺は洗面所の引き出しを開けてポーチを出す。
ポーチの中からアメピンを一つ手に取り、憂鬱な気持ちになりながら鏡の中の自分と目を合わせた。
「兄さんお待たせ~……って、何でおでこ抑えてるの兄さん」
「もしかして今朝の寝癖直らなかったのか?」
「ずっと抑えてんのめんどくねぇ!?」
なんだかんだ早かったらしい俺は、ケイの部屋の前に立っていた。
そこにレンが合流してきて、たまたまドアを開けたケイときざむとばったり会ったわけだ。
この間俺はずっと頭が痛い人みたいなポーズをしていたので、道行く知り合いたちに「大丈夫?」「休んだ方が良いんじゃない?」とか言われてしまった。先日までのゴミのような扱いとは雲泥の差である。心配してくれるのは嬉しいけれど、誤解だ。普通にややこしくてすみません。
「や~……うん、直らなかったから前髪上げてきたんだけど……。なんかちょっと慣れなさすぎて晒せないと言いますか……。というかこれって今ダサいって言われがちだし正直顔が良い訳じゃない俺がしてもイキってるだけにしか見えないというか」
「つべこべ言わずに見せろ」
「えい」
「待って! 心の準備ぐらいさせて!」
俺がダラダラ良い訳していると、痺れを切らしたケイに途中で遮られた上に、いつの間に俺の背後に回っていたレンに両手首を掴まれた。力技ァ!
「ポンパじゃん! 俺は良いと思うけどな~!」
ポンパするには短い前髪を何とかかき集め、気合いでやったわりにはそこそこ綺麗にできたけど、それが似合っているかどうかは別問題である。
きざむは褒めてくれているが、自分で似合わないのは分かっている。レンは既に手を離してくれていたので、俺はまた定位置に手のひらを当てた。
「ヤダよ、俺前髪ないと死んじゃう系男子高校生だから」
「前髪ないと死んじゃう系女子の亜種?」
「俺がやるとなんか子供っぽく見えるし……」
「それが良いと思うんだけど……」
レンにまじまじと顔を覗き込まれて、俺は思わず一歩後ずさる。
そんなレンの後ろから他二人も顔を出し、俺の顔が赤くなっていくのを感じた。
「すごい恥ずかしがるじゃん」
「えー、レアで良いと思うのに~!」
「別にそんな恥ずかしがるモンじゃねーだろ」
「フォローありがとう早く学校行こうか!」
さすがに気恥ずかしくなってきて、三人の背中をぐいぐい押し、俺は三人の背中に頭をぴったりとくっつける。この三人は目立つので、一緒にいる俺も当然注目を浴びるのだ。要するに俺も色々な人の目に晒されるわけである。フィクションの世界のように三人が輝きすぎて俺を目立たなくしてくれれば良いのに……!
「も~、兄さん歩きにくくないの?」
「歩きにくさと見られたくない気持ちを天秤に乗せた結果がこれなんだよ」
レンが呆れつつ俺のことを見下ろし、軽く俺の頭に手を乗せようとしている。しかし、セットが崩れることを気にしてくれたのか、結局行き場を漂わせた後肩をポンと叩いた。
「すげぇ見られたくないじゃん」
「だってただでさえ俺ド平凡顔なんだからベストな状態でいたいのに、こんなの耐えられんくない!? ……ごめん、三人に聞いても同意を得られるわけなかったわ」
「すまん」
「ごめんね」
「悪かったな!」
「そういうところお前らって本っ当に最高だよな~!!」
「ユウキは怒っても良いと思うぞ!」
三人からちっとも謝る気のない謝罪をいただく。
なんだ、平凡顔の俺をバカにしているのか???
でも自分の顔に自信を持っていることは良いと思う。
思ったままのことを素直に言えば、きざむにまるで可哀想なものを見るような目をされた。
地味に刺さるからやめてください。
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