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「何故だ!」
「仁……そんな悔しがることでもないと思うのですが」
「……えーと、もしかして修羅場ぁ?」
「千波……こんな最悪なタイミングで……」
「おい千波ちょっとこっち来い」
生徒会室に行けば、そこにいたのは何故かデスクに拳を打ち付けていたかいちょーと、それを呆れたような目で眺めるふくかいちょー。
ふくかいちょー、優しいんだけどかいちょーにだけはあたり強いんだよねぇ。幼なじみだからかな。
これはタイミング悪かったかなと思って出直そうとするが、それはかいちょーからの命令によって阻まれた。
ここ最近は仕事もサボってないし、真面目にやってたと思うんだけど?
何か怒られるようなことしたっけ、とかいちょーのデスクの前へおそるおそる立った。なんか叱られ待ちみたいでヤなんだけど。
「千波。お前、新聞部の記事は見たか?」
「今朝の? 見たよぉ」
「じゃあ言いたいことは分かるよな?」
そこでかいちょーは新聞をデスクに広げる。
ちなみに新聞部は掲示する新聞を生徒会に提出する義務があり、そこでセーフだと判断されたもののみ掲示できる仕組みだ。
ということは、おそらくかいちょーもふじかず先輩も朝イチでここに来ていたのだろう。新聞は誰よりも早く投稿して掲示するものだから。
改めて新聞を隅から隅まで確認するが、何が問題なのか一体分からない。そもそも、これはかいちょーがOKを出した新聞なのだから問題など無いはずだろう。
俺が首を傾げると、かいちょーは一点を指差した。
『生徒会役員に聞く! 若松くんと永寿くんについて』
ここに載っていた生徒会役員、というのは正しく俺のことであった。そして、へーぼんに読むようせがんだのもこのためである。
少々恥ずかしさはあるが、へーぼんに対して俺がこんなに優しい態度を取るのなんてきっとこれぐらいだ。そう言い切れるぐらいには、俺はこのコメントでへーぼんのことを褒めている。それを見ないなんてもったいないでしょ?
ついでにへーぼんには「まぁこんなこと言うのこれぐらいなんだから感謝してよね~?」ぐらいは言いたかったけど、結局言えなかった。まぁ良い、今度会うときに言えば良い話だ。あ、もちろんきざむと会うときにへーぼんがいたらの話だけど?
「それで、これがどうかしたのぉ?」
「何故お前なんだ?」
「はぁ?」
何が言いたいのか心底分からない。おかげで心からの「はぁ?」がでた気がする。
「このインタビュー、俺と環も受けていただろう? それで何故お前のしか載っていないんだ……! 藤一に賄賂でも渡したのか!?」
「そんなことするわけないでしょう!」
かいちょーのトンチキ理論に即座にツッコミを入れるふくかいちょーはすっかり慣れた様子で、苦労していることが伺える。分かる、かいちょーって変な人だよねぇ。
「えぇ、じゃあ何? かいちょーは自分が載りたかったのぉ?」
「あぁ」
「素直~」
「これ以上のアピールチャンスは無いだろう?」
それもそうかもしれないが、俺としてはへーぼんが生徒会に入るのはごめんなので、ある意味俺で良かったかもしれない。
そもそも、載りたいのなら新聞部にNG出せば良かったのに、なんて思ったがふじかず先輩がかいちょーのことを上手く誘導したのだろう。あの先輩そういうの得意だし。
「仁も、そろそろ曲げたへそを真っ直ぐにしてください」
「俺のへそはちゃんとくぼんでいるが?」
「別に言わなくて良いですよそんなこと」
心底興味無さそうな顔をし、ふくかいちょーはスマホを取り出した。わざとらしく時間を見て、「そろそろ授業が始まりますので行きますね」なんて声をかけてさっさと出て行く。かいちょーの扱いがめんどくさくなったのだろう。
本当は人のいないところを探していたのだが、ここにかいちょーが居座るとなると……
あ、そういえば熱くなった顔を冷ましたかったんだっけ。それならもうとうに冷めた気がする。
よし、じゃあ教室に戻るか。
「千波」
俺が踵を返すと、かいちょーから呼びかけられた。
それは存外優しい声色だったものだから、聞こえなかったフリなんてすることもなくついうっかり俺は振り返ってしまう。
「さっきはあんなことを言ってしまったが……。お前のコメント、良かったぞ。生徒会として相応しいと思っている。……あぁそうだ、生徒会室にいるのは良いがあまりサボりすぎるなよ。俺が先生に怒られるからな」
かいちょーはそう言い残し、さっさと出て行ってしまった。
「……」
「はぁ~~~……」
一体今日はなんなの? 褒められデー? 俺の自己肯定感爆上がりデーか何かだったのぉ?
結局俺の顔はほかほかに戻ってしまったので、俺はしばし生徒会室に滞在することとなった。
『生徒会役員に聞く! 若松くんと永寿くんについて』
『やっぱり若松くんはその柔軟性の高さですね。若松くんの解決まで導けるその力は、きっと僕たち親衛隊持ちや、親衛隊員そのものが変わるきっかけをくれると思っています』
※一部抜粋
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