イベント開催

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  「ユウキくーん! ちょっと良いかい!?」 「はーい!」    ドアを開けたスタッフさんに呼ばれ、俺はレッスンを一旦中断し、振り返って元気よく返事をする。  スタッフさんは頭を引っ込めたため、俺はそのスタッフさんを追いかけるようにドアへ小走りした。   「初音、ちょっと抜けるね」 「いえ! 自主練してるんで全然大丈夫です!」 「ごめんねありがとう!」    台本をなぞるように小声で読み上げるワンコ系イケメンの初音に声をかけると、人懐っこい笑顔で快く送り出された。さすがうちの看板役者だ。この笑顔にはセラピー効果があると思う。  台本の読み合わせは一旦止めてもらい、俺はドアから外に出た。        ここは株式会社トライアングルプロダクション。  世間では「三角プロ」などと呼ばれている、知名度そこそこの芸能事務所だ。    俺はそんな事務所に、見習いプロデューサー兼マネージャー(要するに雑用)として働いている。  高校一年生なのでアルバイト扱いだが、ゆくゆくは正社員になるつもりだ。   「それで、どんな用事でした?」 「あぁいや、実は社長室に若松くんを呼び出すように言われてね」 「社長室……? 分かりました、ありがとうございます」    スタッフさんに軽く頭を下げ、俺はエレベーターへと向かった。  社長室は最上階だ。行き慣れているので、迷うことはない。    さて、今回はどんな用事か。新しい仕事かな。初音絡みか、もしくはツイン・カラー絡みか。  初音は次の舞台に向けて稽古中だし、集中するためにもツインの方の仕事だと嬉しい。      エレベーターから降りて、目の前の部屋のドアを三回ノックする。  中から聞き慣れた「どうぞ」という柔らかい女性の声が聞こえ、俺はフランクに挨拶しながら中へ入った。     「糸枝さん、今日はどうしたんですか」    社長が座るデスクにいるのは、俺の祖母である若松糸枝さんだ。正真正銘三角プロの社長である。    改めて自己紹介をするが、俺の名前は若松ユウキ。今言った通り、一応この事務所の社長の孫だ。  かつてはこの事務所で子役として活動していたが、小学校高学年あたりから裏方へと転身し、中学生あたりからマネージャー業やプロデュース業の真似事をするようになった。あくまでもお手伝いなので給料などは発生していないし、俺からやりたいと言い出したことでもあるので安心してほしい。    そして、もう一つ。      俺は社長のデスクの前のソファに座る二人の男子を見下ろした。    爽やかなイケメンと、クールなイケメン。  この二人は事務所の看板アイドルであり、「ツイン・カラー」というユニットを組んでいる竹村レンリと梅木ケイタだ。     「ユウキ、今回呼び出したのは次の仕事のことだよ。……とりあえずそこ座って」 「はい」    気軽さはありつつも、仕事中なので敬語はちゃんと使う。なんか変な感じだ。俺は二人の座るソファの前に腰掛けた。  レンリ……レンから資料を受け取ると、糸枝さんも資料を手に取って説明を始めた。   「今度、『三ツ葉スクール』にツインが呼ばれることになったの」 「『三ツ葉スクール』? すごいですね。」    三ツ葉スクールとは、インターネットの普及により厳しくなったと言われているテレビ業界で、安定して視聴率が取れている番組だ。  主に「私立三ツ葉学院」という、「学校」をコンセプトとした大胆な売り出し方が特徴の芸能事務所に所属するアイドルが出演している。  三ツ葉学院に所属するアイドルたちのことを三ツ葉生と呼ぶので、ここでもそう言っておくが、三ツ葉生はその個性の強さで今や芸能界トップの人気を誇っており、「三ツ葉スクール」はレギュラー陣どころか週替わりのゲストも三ツ葉生で固められている。安定して高い数字を出していることも納得だ。  そんな三ツ葉生のための番組に呼ばれるとは、一体どういう風の吹き回しなのだろうか。   「あの番組って、今まで三ツ葉生しか出ていなかったのでは?」 「そう。だからその番組に二人が呼ばれたのは快挙ってこと!」    うちと三ツ葉はあまり関わりがない。せいぜい初音あたりがドラマで共演したぐらいだろうか。  アイドル活動において、三ツ葉生はテレビなどの影響力が強めなメディア露出が多めなのに対し、こちらはフェスなどのリアルイベントやライブ、ネット配信が主な活動になっている。    万人受けする三ツ葉生と、コアなファンが多いツインが絡むのには少し不安があるが……   「それで、この仕事受けるんですか?」 「それは二人に任せるよ。事務所としては受けて欲しいし、成功しても失敗しても確実にプラスにはなるけど、さすがにここまで大きな案件となると本人たちの意思を大事にしたいからね」    糸枝さんはそこで区切り、二人の方に向かって微笑んだ。    糸枝さんからしてみれば、この二人も孫なのだ。こんな優しく笑うのも分かる。    そう、孫。レンとケイタ、いやケイと呼ばせてもらうが、この二人も俺と同じように糸枝さんの孫なのだ。   「……おれは出てみたいかも。ケイはどう?」 「レンがやりたいなら」 「決まったみたいだね」    こういうとき、大抵ケイを引っ張るのはレンの役目だ。  ケイにも意思はあるものの、少し照れ屋さんなところがあるので自分からはあまりやりたいと言うタイプではない。  糸枝さんはその返事に安心したように微笑んだ。    対する二人は、ぱっと表情を明るくして俺の方へと振り向く。笑顔が眩しい。     「兄さんに良いところ見せられるように頑張るね!」 「ユウもオレたちのために頑張れよ」      もう一つ。  俺とこの二人は三つ子の兄弟で、俺は長男である。
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