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「もう放課後か……」
「ユウキ今日バイトだっけ? おつかれ~!」
チャイムを聞きながら帰り支度をする。
そんな俺に、友人の雪磨が思い切り喝を入れるように俺の背中をはたいた。
痛いけども、ちょっと緊張が解れた気がする。
「ありがと雪磨……」
「何で叩かれてお礼言ってんの?」
今日は、とうとう三ツ葉スクールの収録だ。
『兄さんも一緒に行こうよ、マネージャーとして』
『えぇ? マネージャーさん別にいるじゃん』
『ユウでも問題ないだろ。マネージャーだって最近忙しそうだし』
『確かにあの人も相当色んな仕事抱えてるしね~……ってこれに関してはダメでしょ! いつものラジオとかならともかくだけど!』
弟である二人にそう言われ、最終的には糸枝さんの『でもユウキがいたら二人にとっても心強いよね。三つ子なんだし。二人のマネージャーに今仕事多いのは本当だし、プロデューサーもいるから大丈夫だよ』という言葉でねじ伏せられ、俺は同行することになった。俺が呼ばれたのってもしかしてこのため?
でも向こうはどう言うか分らんくね? と不安だったが、プロデューサーと一緒に打ち合わせも参加させてもらえた。ザル過ぎない? 本当に良いの?
こんなことを言っている俺だが、実は別で楽しみにしていることもある。
『三ツ葉スクール』のMCは三人。その内の一人と子役時代に共演したことがあったのだ。
俺は名字が変わっているので、相手が気づくかは分かんないけど。
だとしても、かつてオーディションで同じ役を巡って争った俺からしてみれば、最前線で活躍している相手を見るのは普通に嬉しい。
そう考えていれば気分は上がるもので、先程までの緊張が嘘のような足取りの軽さで俺は事務所へと向かった。
スーツに着替えて弟たちと合流し、一緒に現場へと向かう。
制服だと俺のことを知らないスタッフから「何で学生がこんなところいるんだよ」と言われるかもしれないからである。許可は取ってあるものの、ちょっと気まずいだろ。
まぁ顔立ちは誤魔化せないので、あまり目立たないようにしよう。
「兄さんなんか今日いつもより大人っぽいね? 髪かっこいい」
「ありがとう。でも今日の二人の方がかっこいいよ」
「本当? ふふ、もっとかっこいいって言ってもらえるように頑張るね」
レンがにこりとふんわりした笑顔を浮かべ、俺は思わず顔を背けた。あんなの直視したら目が潰れる……! 眩しすぎて!
「今までの仕事も手を抜いたつもりはないけど、今日はここ最近で一番頑張るつもりだから」
「分かった見逃さないし目に焼き付けとく」
「お、おう……」
顔を背けた先にいたケイは強ばった顔をしているが、吹っ切れたように宣言され、俺はノンブレスで返事をする。引いたような声を出されたが、表情は少し柔らかくなった。
こんなかっこかわいい顔をいっぱいされたらテレビの向こうの人たちメロっちゃうね。俺が今メロってるからね。
弟の可愛さに胸打たれていると、車はもうスタジオに着いたようで、同行していたプロデューサーにエレベーターへ引きずられた。
楽屋のあるフロアに着けばAPが待っていて、楽屋へと案内される。
いつもより広い楽屋に少しの興奮を覚えつつ荷物を置くと、さっさと楽屋挨拶のためにプロデューサーから追い出された。
「え、何で俺まで追い出されたの?」
「こっちはこっちでやることあるから若松くんは二人について行ってあげて~。大丈夫、若松くんこの中じゃ一番芸歴長いでしょ?」
「歴の長さと仕事の数が比例していませんが!?」
「そういうわけだから、兄さん一緒に行こ?」
「ひょっとして、いたいけな弟をこんな大きいテレビ局にたった二人だけで歩かせるつもりだったのか?」
「自分でいたいけな弟って言う子は多分普通に神経図ぶとちょっ、待って待って!?」
俺が言い終える前に、二人に片方ずつ腕を絡め取られてしまい、為す術なく俺は二人に連行される羽目になった。
抵抗を諦め、自分で歩くために二人にジェスチャーすると腕を離される。
仕方なしに三人で並んで歩き、とうとう共演者の楽屋の前に着いた。プレートには三人の名前がある。珍しい、MCは全員同じ楽屋なんだ。
ということは、この中に俺の昔の知り合いもいるということ。
俺は意を決してノックをし、相手が出てくる前に二人の後ろに控える。
ドアはこちらに問いかけることもなく、あっさりと無防備に開いた。
そこから覗いた顔は、サラサラと指通しが良さそうな、毛先だけが赤色の金髪に、気を抜くと目が吸い寄せられる碧眼をした美しい男だった。
(綺麗だ)
この男のことは、芸能人に興味のない人ですら知っていることだろう。
今やテレビで見ない日は無いと言われるほどの人気を誇る、実質的な三ツ葉生のトップ。
国玉仁という男である。
生で見るのは初めてだったが、その圧倒的な王者のオーラに思わず仰け反りそうになった。
弟たち二人もそれを感じ取ったようだが、そんなオーラを気にしないよう挨拶をする。よくできた。俺ならできない。
「こちらも初めまして、だな。『三ツ葉スクール』のMCを務める国玉仁だ。今回は来てくれてありがとう。それで、その後ろにいる……」
「おーい、すみません、ちょっと通してもらっても……」
国玉さんからも快く挨拶されるが、俺の後ろにいる人によって遮られる。
あれ、この声ってもしかして……。
思わず振り向くと、そこにいたのは俺が会うのを楽しみにしていた人物だった。
「……永寿、ちょうど良い。今挨拶の途中だったんだ」
「あっ、もしかして今日のゲストのツイン・カラー? 初めまして、MCの永寿きざむです! ……ってあれ?」
目立たないことが難しい鮮やかな赤色の髪に、宝石のように輝く大きい翠眼。それから、未だ幼さの残る顔立ち。
この子は、俺が昔共演したことがあるきざむで間違いないだろう。
俺がそう確信すると、俺たちに道を空けられて国玉先輩の横に並んだきざむと目が合う。
そして、数秒の沈黙の後、「あぁっ!」と驚いたように声を上げ、俺へ飛びついてきた。
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