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「うわ!? ちょっ、い゛っっだぁ!?」
「ユウキか!? ユウキだろ!? ユウキだな!!!」
「兄さん!?」
「ユウ!」
「自分で納得するな! あと早くどいて!」
「うわごめん!」
どうやら俺のことを覚えていたらしい。それは嬉しいが、飛びつかれた拍子に俺は思い切りケツを地面に打ち付けてしまった。普通に痛い。
弟たちは早すぎる展開に着いていけてないようで、呆然と俺のことを見下ろしていた。しかし、すぐに気がついて声を掛けてくれる。
そこできざむはようやく謝りながらどいてくれたので、俺は足に力を入れて立ち上がろうとした。
が。
(ヤベ、これ倒れるかも)
どうやらまだダメージが残っているようで、俺の体は大きくふらついてしまった。
弟がこちらに手を伸ばそうとしてくれているが、その手は間に合わない。諦めて受け身の体勢を取る準備をする。
(あれ?)
いつまで経っても体が後ろに倒れる気配はない。
それもそのはず、俺の体は誰かによって後ろからがっちりと掴まれていたからだ。
「大丈夫か?」
そのままひょいと持ち上げられ、俺の足は宙に浮く。
すげぇ、この人なんだかんだ身長170ある俺を両腕の力だけで持ち上げてる。
「ありがとうございます!」
「怪我が無いのなら良い。むしろこっちが悪かったような気がする」
「「椎名!」」
振り向きながら顔を見れば、ピンクアッシュの髪に茶色の瞳、何気に芸能界では珍しい小麦色の肌。つり目につり眉の、厳しそうだがそれでいて精悍な顔つきをした男だった。
彼は、三ツ葉スクールのMCの内の一人である椎名さんだ。
偶然にも今日番組に出演予定の演者が集まったので、これ幸いと挨拶を済ませることにする。
「それで、永寿が引っ付いている方は……?」
「若松ユウキです。本日はツイン・カラーのマネージャーとして参りました」
「ユウキ? って言うともしかして……」
「マネージャー!?」
椎名さんが不思議そうに俺のことを見ながら手のひらを向けた。もっと不審そうにしてもいいものなのだが。
自己紹介をすると、国玉さんが何かを思い出したように言っていたが、その言葉もきざむによって遮られる。この人さっきから遮られすぎじゃない? いやきざむが遮りすぎてるだけか?
「ユウキいつの間にマネージャーになったのか!? 俺お前の出てる作品ずっと追ってるになかなか見つからないから変だなとは思ってたけど!」
「まぁ。『アカイロヒーロー』から裏方に転身してね」
「はぁ!? お前あれで主役だったのに!?」
『アカイロヒーロー』というのは、俺が初めて主演を務めた作品でもあり、俺の代表作とも言える作品だ。それ以降は名前のある役は貰ってないし、あっても代役程度だったので、実質的な有名作はこれしかない。
そして、このオーディションで主演を争った相手こそきざむなのである。
結果は俺が勝ったが、きざむは俺の相棒役としてキャスティングされていた。
今となっては話題になることの多い監督の作品だが、当時はまだまだ若手だった。それでいて三ツ葉の知名度もそこまで高くなかった上に、主演となるのがほぼ無名で子役の俺ということで、あまり弾まなかった作品と評されているが、俺としては思い入れの多い作品だ。
なんなら当時の三角プロは本当に倒産寸前レベルの危機に陥っており、事務所の誰もが色々なオーディションへと走らされていた。まぁ結局はそれも何とかなったのだが。
きざむにがくがくと胸元を揺すられていると、スタッフさんから「そろそろメイク始めますよー」と呼びかけられる。
お開きの雰囲気がその場に漂い、俺たちは挨拶もそこそこに楽屋へと戻った。
『それでは今週のゲストを紹介します!』
『初めまして! 「ツイン・カラー」の竹村レンリと、』
『梅木ケイタです』
ついに収録が始まり、俺はプロデューサーの隣に並んで食い入るように二人を見つめた。
うん、二人とも調子は良さそうだ。
受け答えもしっかりしつつ、ときどきケイは天然発言をかまし、それにレンがツッコんだり、それとなく周りの様子から引き際を察して、後ろへ退いたり前へ出たりしている。
我が弟ながら天才では?
これが初めての全国放送だと言うのに、二人からは緊張が見えない。むしろリラックスしているような? 度胸あるな。
『さて、それではここでツイン・カラーのお二人に一曲歌ってもらいましょう!』
来た、一番の見せ場だ。
台本でもここは一番の盛り上がりどころとされている。
二人はもちろんトークもできるが、ライブに関しては、リアルイベントに特化した事務所に所属しているだけあって、フェスのような大規模のステージから小さいライブハウスまで場数はそれなりに多い方だ。
ただ、唯一の懸念点はカメラを意識したライブをしたことないことである。
この収録までの間はとにかく実際に動画を撮りながらの練習ばかりしていたが、それははたして効果があるのか。
いや、不安に感じることなどひとつもないな。
あの二人なのだ。きっとできる。
もう俺もすっかり覚えてしまったイントロが流れ、こっそりと二人に微笑みかけた。
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