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間奏中、くるりとターンしたレンがカメラに抜かれる。
そのカメラに向かい、レンはカメラを撃つようにバーンし、ぱちんとウィンクを一つ送った。
レンは元々ファンサを結構するタイプなので、ここ最近の詰め込み練習でファンサまであっさりと習得できた。
音程のブレも感じないし、生歌だというのに声もしっかり出ている。
対するケイは、ファンサは少し苦手だが、真剣そうでそれでいて笑顔を浮かべるその姿には惹かれるものがある。
ダンスのキレは宣言通りいつも以上で、迫力があった。カッコよさに拍車をかけている。
動き方もカメラを意識できているし、ダンスのフリなどもアドリブでちょっと変化をつけている。
この子たち、適応力高すぎでは?
弟たちのやればできる子具合に俺はキュンキュンしっぱなしである。全く、敵わないね……!
俺がにまにましていると、プロデューサーに脇を肘で突かれた。あぁ、他所なんだから顔引き締めろってことね。
そこで改めて視野を広げ、弟たちのミニライブを見た人たちのリアクションを観察することにする。
スタッフなどは感心している人が多そうだ。ふんふん、そうだよねそうだよね。俺の弟すごいよね~!
スタジオ内にいる人たちも楽しそうに笑っている。
きざむも椎名さんもニコニコしていて……
(ん?)
みんながニコニコしている中、たった一人。国玉さんだけがニコニコというよりニヤニヤというか……ドヤ顔というか……そんな表情を浮かべている。
貴方が歌って踊ってるわけでもないのに、どうしてそんな顔してるんだ?
結局その真相は分からないままに収録を終え、俺たちはテレビ局から退散することになった。
と、思ったんだけどね。
「若松、どうした? 食わないのか?」
「イエ……お構いなく……」
「よしじゃあ盛るぞ」
「あの、お構いなくの意味は」
「ご存知だ」
「ソウデスカ……」
少なくとも俺が入ることは無さそうな、見るからに高級感漂う焼肉店の個室。
そんな場所で、俺と彼……国玉さんはサシで肉を焼いていた。
なんてことはない、掃いて捨てるほどいる中堅芸能事務所のただのマネージャーに過ぎない俺に、今をときめかせているトップアイドルが肉を焼いてくれている。……これは夢か? 夢だな?
にわかに信じられない話だが、しっかり現実なんだよな……。
何故こんなことになったのか。
話は収録が終わったところまで遡る。
『よし、じゃあスタッフさんたちに挨拶してくるから二人と若松くんも挨拶してきな?』
そのプロデューサーの一言で俺たちはまた投げ出された。
しかし、今度は俺たちが向かう側ではなかった。
『若松。ちょっとメシでも食い行かないか?』
何故なら、ドアの前では国玉さんがスタンバっていたからだ。
おまけにご飯に誘われた。名指しで。
結局それを無下にすることもできず、俺は頷いてしまった。
そんなわけで俺と国玉さんはここに居るのだが。
国玉さんはトップアイドルということもあり、ツテが多いことは想像に難くない。
今日の二人を見た国玉さんから、マネージャーの俺を介してそういうツテを紹介してもらえるのではないかとほんのちょっとだけ期待していた。
しかし、来てみればひたすら延々と肉を焼いている。
というか国玉さんはそんなに食べても大丈夫なのか? 大食い売りは椎名さんじゃないの?
「あぁ、俺も結構食べられる量は多くてな」
しれっと思考読まれたくない? そんな分かりやすいかな、俺。
「さて、そろそろ本題に入るか」
「本題……」
もしかしたら本当にそうなのかも。
俺の胸は期待で大きく高鳴り、喜色は滲み出てしまっている気がする。
「実は最近、三ツ葉生の気がたるんでる気がしてな。そこで、ゲストに他事務所のやつを呼ぼうと提案したんだ。そうすれば少し危機感を持つだろうと思ってな。……あの二人を呼んだのは正解だったな。三ツ葉生とも遜色ない実力だった」
二人はいないというのに褒めちぎられてしまい、つい俺が照れてしまう。
それに、国玉さんの口ぶりからして。
「あぁ、あの二人を推薦したのは俺だ。改めてお礼を言おう」
「っいえ! 俺から伝えさせていただきますね!」
「それはありがたいな」
二人をまさかこの人に見つけてもらえるとは思ってもいなかったので、俺は内心ガッツポーズを作ってしまった。
あの三ツ葉のトップアイドルに認められているということは、二人の自信にも繋がる。
「それに、思わぬ拾い物もしたしな」
国玉さんは肉にタレをつけ、一口で食べきった。決して品がないわけじゃないのに、何故かお皿の肉の減るスピードが異常だ。あれ? こんなすぐ減るもんだっけ。
「拾い物、とは?」
色々気になるが、とりあえず今一番気になることを聞くと、国玉さんは箸を置いた。
そして、軽く前へと身を乗り出す。
「お前の出てたドラマな、永寿が出ていたということで俺も見ていたんだ」
「あ、それはありがとうございます」
個室だというのに何故か声を潜める国玉先輩に対し、俺は普通に普通の声量でお礼を言った。
話が見えなさすぎて混乱していると言った方が正しい。
「本当は永寿の演技を見るべきだったのだろうが、ついお前の方に惹き付けられるぐらいあまりにも主役のお前は凄かった。あの演技は、本当に当時九歳だとは思えないぐらい光っていた。主役だったことも納得だ。……お前のその才能は、そのままにしておくには勿体ないと思う」
「お誉めに預かり光栄です」
話が見えないとは言っても、感想を言われることは嬉しくて仕方ないのだ。
俺の顔が綻ぶのを感じる。
だって嬉しいじゃん。しょうがない。
「だから、うちに来てみないか?」
「……はぇ?」
そんな俺の笑みは、間抜けな声と共に抜け落ちた。
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