イベント開催

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  『みんなありがとー! 三ツ葉生の右近と、』 『左近だよー! 今日はいっぱい楽しもうね! それじゃあ次の曲は……』     「すご……」    舞台袖からステージを覗き、俺は思わず感嘆する。  本人たちの凄さはさることながら、ファンも凄い。歓声がなり止む気配は一向に見えないのに、曲が始まってしまえば一瞬静かになる。ペンライトの動きは波を打つようだ。    しかし、俺は先程の国玉さんのことが頭から離れず、確かに楽しいライブだと言うのに、ちらちらとそれが頭をよぎる。そのせいか、少しノリきれていない部分があった。    そして、国玉さんの発言が、二ヶ月前の初音の発言と少し被っていた部分があるところもその原因である。     『スタッフ……』 『演技することは好きだけど、プロとしてそれ一本で食べていきたいかって言われたらなぁ……ってところなんだよね』 『難しい話ですね……。もっと単純だったら話が早いのに』    さっきまでの勢いはどこへやら。静かに俺の隣に座り直した初音は、ぐっと伸びをして立ち上がった。立ったり座ったり忙しいね。   『俺、ユウキ先輩が俺のために頑張ってくれるところ好きなんです! スケジュール調整してくれたりとか、俺のためにレッスンルーム予約してくれたりとか、差し入れの準備してくれたりとか、タクシーの手配とか、稽古に付き合ってくれたりとか!』    初音は素直にそう言い切り、まさにドヤ顔としか表現のしようがないほど誇らしげな満面の笑顔を浮かべた。  ここまで言われると照れるね。顔が熱くなっていくのを感じる。   『でも! 稽古に付き合ってもらえばもらうほど、「役者」としてのユウキ先輩と舞台に立ってみたくなるんです!』    そう言っている初音の顔は心底楽しそうで、嘘などまるで見えなかった。  きっと本心から言ってくれているのだろう。  初音はとっくのとうに売れっ子役者だというのに、先輩という肩書きしか持っていない俺にそう言ってくれることが嬉しくて仕方ない。     『えぇ、つまりどっちが好きってこと?』    照れ隠しの混じった冗談でそう聞くと、初音は少し悩む素振りを見せる。  しかし、まるでそんなこと考えるだけ無駄だと思っているかのような吹っ切れた顔で俺のことを見下ろした。   『どっちも好きです! だってユウキ先輩、口ではマネージャー業の方が、とか言ってますけど、演技してるときもすっごく楽しそうな顔してますから!』       「っ!」    俺の回想はそこで終わり、どことなく霞んだように見えていた視界はクリアになる。  そのクリアになった視界には、確かにスローモーションで俺に流し目を送る国玉さんが見えた。    ぞわっと、体の芯から何かが込み上げてくる。      鬱陶しいほど眩しい証明も、耳にガンガン響く歓声も、目がおかしくなるほど規則的に動くペンライトも、頭がバカになるぐらい暑いこの空間も!    全部が楽しくて仕方ない!    自分の中で、何かが暴れたくて仕方ないって言ってるような気がする。      この何か、が一体何なのか。  俺が理解できたのは、ライブが終わってからだった。       「若松、ライブはどうだったか?」 「……すごい、楽しかったです。こんな月並みな言葉しか出てこなくて申し訳ないんですけど」 「いや、むしろ十分だ」    国玉さんが何かを言いたげにこちらをチラリと見る。先程と同じ流し目だ。でも、あの湧き上がるような何かは無かった。  その理由を答え合わせするように、国玉さんがおそらく聞きたいことに答えようと俺は口を開いた。    しかし、それが音になることはなく。     「ユウキ!? お前来てたんだな!」 「うわぁっ!? きざむ!? ちょ、一旦離して! 真面目な話するから!」 「昔からの友達のこともうちょっと大事にしろよー!」 「連絡先交換したのこの前だよね!? それまで連絡一回も取ったこと無かったよね!?」 「俺は取りたかった!」 「あぁもう! 国玉さん、すみませんが失礼します!」 「お、おう」    嵐のようなやり取りに国玉さんが少し残念そうな顔をしているが、俺はきざむに引っ張られながらも無理やり後ろへ振り返って国玉さんの名前を呼ぶ。  すごすごと踵を返した国玉さんだったが、弾かれたようにこちらに振り向いてくれた。     「俺! 国玉さんたちのライブ見てたら、ますますマネージャー業に力入れたくなったんです!」 「何故だ!?」      俺の言葉がよっぽど予想外だったのか、国玉さんはがくりと膝から崩れ落ちる。まぁ確かにこの流れでこれは無いよな。   「だってあの子たちにもあの景色を見せたくなっちゃいましたから! それに、俺の力でここまであの子たちを連れてきたいって思って!」 「分かったもういい」 「でも!」    国玉さんは諦めたようにように手を振っていいえの意思表示をしたが、俺はそれを無視して続ける。国玉さんは手を止め、俺を見上げた。  きざむの手をするりと抜け、俺は国玉さんの方へ小走りで戻る。     「俺、自分で思ってる以上に演技も大好きなこと、ようやく分かったんです。……だから、事務所には行きませんけど、表舞台のことについては考える、かもしれません」 「それって……」 「えぇっ!? ユウキ戻ってくるのか!?」    最後まで遮られてばかりだなぁ。    俺は力を抜いたように笑って、きざむの方へ向いた。     「分かんない!」               「兄さん、このライブ生で見てたんだ」 「……配信でもこんなすごいのに、生で見たらやべーだろうな」    事務所の寮の共有スペース。  そこでは、ほんの数分前まで今日の三ツ葉生のライブがモニターに映し出されていた。    三ツ葉生のライブは人気なため、こうしてライブビューイングもされているのだ。     「なんというか、だけど」 「……負けたくねぇって表現は間違ってんだろうけど」    二人の思っていることはきっと同じだろう。  お互いに顔を見合わせ、二人はそれぞれの自室へ向かった。    レッスンウェアを取りに戻るために。 『三角プロにご用ですか?』完
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