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「ねぇ兄さん、高校どこにするか決めた?」
俺の弟、レンが思い出したようにそう聞いてきた。
もう一人の弟、ケイは広げたスナック菓子に手を伸ばしている。お菓子を食べながらも、チラチラと目線をこちらに向けているところを見ると、ケイも俺の進路が気になっているのだろう。
二人は夏休みになり、学校から直接この家へと来たから、暑そうな制服姿だった。頬は少し汗ばんでいる。
制服はどちらも白いワイシャツに深緑のスラックスだ。ケイはネクタイを着けていないが、レンは学校指定の深緑のネクタイを締めている。ケイはワイシャツの下に赤のシャツを着ていて、中学生でそれは良いのかと思うが特に違反にはならないらしい。俺にとっては信じがたいが、髪を青に染めてても、ピアスを開けてても、ケイのファッションが全て校則違反になっていないところを見れば納得するしかない。校則緩すぎだろ。
それに対し俺は何を着ているのかと言えば、普通のハーフパンツにTシャツだ。つまり私服である。
俺がいつも学校で履いている、いたって普通の黒のスラックスではない。
さて、俺たちがどういう関係なのか気になった方もいることだろう。
簡単に言えば、俺たち三人は三卵生の三つ子である。
一番上が俺ことユウ、二番目がレン、三番目がケイだ。
本当なら俺たち三人は、今俺が通っている公立の中学校へ一緒に通うはずだった。
ところが諸々の事情で、俺たち三人は小学五年生のときに離れて暮らすことになってしまった。
ケイはエスカレーター式の全寮制男子校にすぐ編入し、レンは中等部から入学という形で同じ男子校に通うことになった。ちなみにこの二人が同じ学校になったのはまったくの偶然である。
あぶれた俺が制服を着ていないのは、単純に二人よりも夏休みの始まりが早かったからだ。
そんなこんなで時が過ぎるのは早いもので、現在、俺たちは中学二年生となっていた。
進路を考えるには少々早い気もしなくもないのだが、違う学校に通っている二人からすれば俺の進路は気になるものなのだろう。
二人が通っている学校はいわゆるお坊ちゃん校というやつで、学費はバカ高いし、高等部からの入学となれば当然のごとく試験もあるわけで。で、その試験がクソ難しいらしい。
一応俺の成績は悪くないし、一般入試で普通に受かるぐらいにはできる自信はある。しかし俺のような一般生徒だと、受かったとしても学費の問題で通うのは難しいだろう。
レンとケイを引き取った方たちは、経済的に余裕があるからその学園に通えるのは分かるが、俺はそこまで裕福というわけでもない祖父母の家へと引き取られたのだ。別に暮らしに困るほどでもないが、その学園に通うことになったらこの家はかなりカツカツになってしまう。
でも。
「俺、そっちに行こうと思ってる」
「「……は?」」
ケイは持っていたスナック菓子をポロリと落とし、レンは開いた口が塞がらないようだった。
幸いなことに俺の弟たちはイケメンだから、間抜け面を晒していても不思議と様になってしまう。あ、ケイは床拭けよ。
「え、確かに兄さんは勉強できるけど……」
「その、学費とか大丈夫なのか?」
二人が俺を伺うように、心配そうな表情を浮かべて上目遣いをしてきた。
ちなみに普段は二人とも俺より身長が高いが、俺は現在ベッドに座っていて、二人は床にそのまま座っているため、必然的に俺の方が高い位置にいる。
二人のレアショットを心の中で保存し、俺は二人を安心させるように微笑んだ。俺は二人みたいに顔が良いわけではないが、笑顔はやはり大事である。
「そっちの学校、特待生になれば学費免除されるよね?」
「えっ」
「……ってことは、特待生試験を受けるつもりなのか?」
二人が驚くのも無理はないだろう。
ただでさえ一般入試も難しいのに、特待生試験の筆記はそのさらに数倍難しいらしいのだ。
その上、面接でもかなり突っ込んだことを聞かれる。
それこそ、部活動を頑張った程度では面接は間違いなく落ちるだろう。せめて組織のトップに立つぐらいでなくてはならない。
だが、俺は既に一年生の頃から、正しく言うと二人が同じ学園に通っていると聞いた時から、着々と準備を進めていた。
「学力試験の方ならかなり対策してるから大丈夫。今のまま勉強し続ければ問題ない、はず」
「それなら面接は? さすがにあの学園の特待生試験に受かるレベルで勉強してるとなると、部活はしてないでしょ? というか帰宅部だって言ってなかったっけ? おれの気のせい?」
「ユウ言ってたと思うぞ。運動もそれなりにできるのに部活に入らないの意外だと思ったから、それは確かだな」
「その点なら大丈夫、俺生徒会長になったから。まぁあの学園の面接を考えるならなっただけじゃ意味ないだろうし、色々と学校改革もしてみるつもり」
実を言うと、つい先日の生徒会選挙で俺は生徒会長の座をもぎ取った。まぁ他に立候補者がいなかったから、信任投票だったんだけど。
とにかく、公立中学校の生徒会長ができることなんてたかが知れているが、それでも色々やってみて損はないだろう。
もちろん生徒会に入れば帰るのも遅くなってしまうので、それを見越して一年生の頃から勉強には励んできたつもりだ。
先生にも自分の進路を伝えているから、名門私立学校への入学実績が欲しい先生たちも、勉強面ではかなり俺のことをお世話してくれている。
祖母と祖父へもきちんと進路のことについては話し合ってるし、あとは勉強と生徒会活動を頑張るだけだ。
と、いうことを長々とだが二人に伝えると、二人とも少し渋い顔をした。
「……ガチじゃん」
「ガチだよ、二人のいる学校に行きたいから」
「あそこ、ユウが思ってるほど良いところじゃねーぞ」
吐き捨てるように言ったケイに、俺は首を傾げた。
確かに金持ち校って色々ありそうだけど、そんなに言うほど?
「親衛隊とか制裁とか……」
「抱きたいランキング抱かれたいランキング……」
「ということは抱かれたくない男ランキングもあるのか!」
「さすがにそれをしない優しさはあるよ!」
二人が疲れたような顔をして、あまり聞き馴染みのない単語を口から出した。言うたびに二人のHPが削られているのが目に見える。
とりあえず一つ一つ整理していこうと、俺は二人に説明するように言った。
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