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「小中高で男しかいない空間、加えて簡単には外に出られないような山に囲まれた学園で育ってきたからか、同性同士の恋愛が当たり前で? スペックが高い顔の良い生徒には親衛隊っていう組織がついて? 生徒会役員は、年二回行われる抱きたいランキング、抱かれたいランキングで上位になった成績優秀者から選ばれての? 親衛隊はそんな人気生徒に近づけば制裁という名のいじめをし、それを風紀委員会が頑張って処理してる……。ふ〜ん、面白い学校」
「いやそんな『おもしれーやつ』みたいなノリで言わないでよ」
「いじめってどういう感じのやつ? 金持ち坊ちゃんのいじめってやっぱブルジョワ感ある?」
「いじめにブルジョワ感もクソもねぇしなんで一番にそこ気にするんだよ、一番言いたくないところなんだが」
分かりやすく説明してくれた二人に感謝しつつ、気になるところを深掘りしようと聞いてみれば、親衛隊のいじめについての話が出た瞬間二人とも顔を強張らせた。
「あー………、その、レイプ、とか?」
「全然ブルジョワじゃねえや」
「最初からそう言ってるだろ」
「てか相当にヤバいね!?」
想像の数倍を超える濃さに若干引き気味になった。だいぶアレだね。とりあえずもっと他のことを聞いてみたいと思い、質問を変えてみることにする。
「二人ともぶっちゃけ親衛隊ある?」
「中等部は親衛隊の結成は認められてないよ」
「でもその前身的なやつはあるんじゃない? 知らんけど」
ムッとしながら反論するレンに、軽く言えばいかにも図星ですといった表情を浮かべた。マジか、あるんか。
「それぐらいの人気があるってことはさ、二人とも結構好かれてるわけじゃん? 告白とかされたことある?」
俺がそう聞くと、二人ともにこりと微笑を浮かべた。これはきっと詳しく聞くなということだと思うが、つまるところ告白されたことあるということだろう。
かわいい弟たちが学園の野郎どもの毒牙にかかりかけていると知り、少々不快な気持ちになった。
もしかしてなんらかの被害を受けたこととかあるのだろうか。いやでもそういうデリケートなこと聞くのはちょっと……などと考えているが、全て顔に出ていたらしい。
レンもケイも被害は受けていないと報告を貰った。
とりあえず安心したが、その安心は一体いつまで続くのやら。
中等部にはまだそういったことは少ないようだが、高等部は一気に強姦被害が増えるらしい。
そんな危ない学園に通っていて?
もし弟たちがそういう被害に遭ったら一体どうなるのだろう?
俺も学園については一通り調べたが、男たちのアレやコレが繰り広げられていたなんて知らなかった。すなわち、そういう犯罪があったとしても揉み消されてしまうのではないだろうか。
つまり、弟が被害に遭ったとしても、それを俺が知ることは叶わないのかもしれない。
弟はきっと兄である俺を気遣って言わないだろう。
そうしたらこのかわいい弟たちはずっと一人で苦しまなきゃいけないのか?
そんなことさせるはずないだろうが!!!
「……ヤバい学園だってことは分かった」
「分かってくれた?」
「だったら進路先も……」
「引き続き受験勉強を頑張ることにするよ」
「これ進路先変える流れじゃない!?」
レンが思わずといった風に勢いよくツッコみ、ケイは諦めたような表情を浮かべた。なんやかんや弟たち二人は俺の諦めの悪さも知っているのだろう。三人で離れることになったときも俺が一番反抗してたし。
「……ここまで言っても変えねぇってことはもうユウは決めてんだろ、だったらオレらが口出すことでもねーな」
「えぇ、おれはどうかと思うけど……」
「よっしゃあ! ケイさんきゅー!」
ケイは額に手のひらを当て、ため息を吐いた。めちゃくちゃ渋々頷いてくれている。
対するレンは気が進まないようだ。普通そうだわ。
ケイの背後に周ってわしゃわしゃと頭を撫でてやると、ケイは恥ずかしそうに「やめろって」と口では言うが抵抗はしない。かわいい。
「レーンー、お前も認めてくれよ〜」
「兄さんに危ない目遭ってほしくないし……」
「それだったらお前らの方が危ないだろ。俺としては、さ」
ケイの頭から手を離し、そっとレンを包み込むように抱きしめると、レンは腕の中から俺を見上げた。
少し不服そうな表情を浮かべながらも、頬を赤らめている。ちゃんと嬉しそうじゃん、好き。
「かわいいお前に何かあるかもしれないってところに、兄として行かないわけないだろ」
言いながら耳輪を撫でると、びくりと肩が震えた。うん、可愛い。こんなに可愛いのに学園の男どもに狙われないわけがない。
そんな俺らを見て、ケイが少しそわそわしている。俺はレンの耳から手を離し、そのままケイにこっち来いとジェスチャーした。
言われた通りケイはこっちにやってきて、俺はレンを抱き抱えたままケイも一緒に腕の中に入れる。
「ほら、ケイもかわいー弟だから。ね?」
「いっ……! べっつに羨ましくなんて思ってねぇし!?」
同じようにケイのことも可愛がると、レンがため息を吐いた。
「……二対一ってさ、分が悪いよね」
「それじゃあ……!」
「ただし! 条件があります!」
レンは人差し指を立て、俺の眼前へ突き立てた。最高にあざと可愛い。敬語口調のレン可愛い。
「おれらが兄弟だってバラさないこと! 男どもに貞操狙われないようにすること! それから……」
「おれら以外をかわいがらないこと!!」
……俺の弟たち可愛すぎか? ケイも何も言ってはいないが、こくりと小さく頷いた。
俺は確認するように、弟たちが言った条件を頭に並べてみる。
男に貞操狙われないこと。
まぁいけるいける。むしろ危ないのはこの弟たちだ。
弟以外をかわいがらないこと。
てか弟よりもかわいい子っているのか? 条件クリアは余裕だろう。
俺らが兄弟だとバラさないこと。
うんうん、これも気をつければだいじょ……ん?
最後の破壊力が強すぎて途中のがすっぽ抜けかけたが、慌てて聞き返した。
「どうして兄弟だってバラしちゃダメなん? てかお前らは? 普通に兄弟として通ってるの?」
「おれらも兄弟ってことは隠してるよ。元々はケイが言い出したことだけど、兄さんも来るなら好都合だったね」
「そうだな」
「じゃあどうして兄弟だってバレちゃいけないわけ?」
俺が聞くと、レンは言葉を選ぶようにしながら俺に説明してくれた。
曰く、外部入学生なんてほぼいないだろうし、その上特待生なんて目立つの必至だろう。
とにかくみんな興味があるはずだ。
しかし、あの学園はなかなかに厄介な場所だ。
嫉妬なんてめちゃくちゃに渦巻いているし、ピリピリしている生徒も少なくない。
そんな中、平凡な生徒なんてストレス解消の格好の的だ。多分ちょっとでもしくじったら、すぐにそこを突かれる。
俺のような平凡な生徒が安らかに過ごすには、ひたすら無害アピールをし続ける必要があるのだ。
そうすれば親衛隊からのやっかみや生徒の嫉妬を受けることもないだろう、と。
「あぁ、確かにそんな状況で可愛いお前たちと実は兄弟だってことが知られたら面倒なことになりそうだな」
「可愛いとか兄さんにしか言われたことないんだけど……」
「俺からしたら二人とも可愛い弟だから」
「兄バカもほどほどにしとけよ」
そこまで話したとき、レンのスマホから着信音が鳴った。おそらくレンを引き取った方たち、つまり現在のレンの家族が迎えに来たのだろう。
ケイもまだ連絡は来ていないが、そろそろ来てもおかしくはない。
「あーあ、次は冬休みかぁ……」
「俺が学園に入学したら毎日会えるようになるじゃん? 中学生の内だって長期休みがあるだろ?」
「冬休みまで何ヶ月あると思ってるの! そもそもおれは学園に兄さんが来るの反対派だし、学園に来ても兄さんとは必要最低限しか関われないし、あとほぼ兄さんにとってデメリットでしかないじゃん……」
「は? お前らの顔が毎日見れるってだけでデメリット帳消しレベルだろ、プラマイゼロところかプラマイプラだよ」
「兄さんってほんっとにそういうところ……ケイもなんか言ってよ」
「……」
「え? ケイ?」
「ケイの耳めちゃくちゃ真っ赤じゃん、やっぱ可愛いな」
「追い討ちかけんじゃねぇ!」
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