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そんなやりとりをしつつ、俺は高校一年生となった。
学校? もちろん合格した。
これでレンとケイの顔が毎日見れるようになったわけだ。今までは長期休みのときしか会えなかったからね。
さて、そんな俺は今どうしているのか。
「……」
ぼっちである。
??? あれ、おかしいな。いくらテンションが鬱陶しくても友達の一人や二人ぐらいはできるもんだと……。
しかし、これも美形至上主義の学園だと前もって聞いていれば頷ける。
明確にいじめられているわけではないが、視線をやたら感じたり、可愛い系の顔をしたクラスメイトからのあたりがなんとなく強かったり……。一応日常生活に支障が出ない程度だが、少し困っている。
話しかけたら答えてくれるが、すぐに話を切り上げられてどこかへ行ってしまうとか地味に嫌なんだが?
ふと周りを目だけで見渡せば、とある二人が目についた。
その二人というのは俺の弟たちである。
この学園は入るために顔の良さが必要なのか? いや俺は紛れもない平凡顔だな、と思い直すことが頻繁にあるぐらいにはこの学園の生徒は顔が良い。
そんな中でも、レンとケイは別格だ。
優秀な生徒の選りすぐりであるこのSクラスにおいても、二人の目立ち方は半端じゃない。
あぁ、Sクラスというのは言ってしまえばエリートクラスみたいなやつである。
この学園は、クラスを上から順にS、A、B、C、D、Fの六つにランク分けしていて、上であればあるほど良いとされている風潮があるようだ。
一応成績順でランク分けされているようだが、正直この学園のことだから、人気とかで上に行きそうな気もしなくはない。まぁたとえ建前だったとしても、成績順ならば学力特待生の俺がS組じゃないのはおかしいだろう。
もしかしてレンとケイもそういう学園の陰謀によってS組にいるんじゃないかと思ってしまったが、この前の学力テストで、俺に続いて二位と三位にランクインしていた弟たちの名前を見て、思わずにっこりしてしまった。やっぱ俺の弟は凄いな。とにかく、弟たちは成績も申し分ないし、S組であることも当然の摂理だろう。
そんな弟たちの人気は、どうやら学園内でも止まるところを知らないらしい。
この学園での例の風習、抱きたいランキング抱かれたいランキングの年二回の内の一回は、入学式のときに発表された。
その入学式でのランキングでは、本来ならば一年生がランクインすることはないらしい。まぁ当然だろう、一年生が入学する日にランキング入りとかもはや化け物である。……なんて思っていたのが間違いだ。
なんと、ケイは抱かれたいランキング九位、レンは同じく十位だったのだ。ちなみに抱きたいの方は二人とも圏外だった。弟が学園の生徒に掘りたいと思われているのも、兄としては普通に嫌なので良かった。そうだろう、俺の弟はとてもカッコいい。
まぁつまりは、二人はとても人気だ。すごくすごく人気だ。
改めて二人の方を見ると、レンはたくさんのクラスメイトやら親衛隊やらに囲まれており、ケイは自分の席に一人で頬杖ついて座っている。
レンは見たところ友人が多く、親衛隊からも慕われているようだ。しかし、ニコニコとしたあの笑顔は俺が知っている普段のレンの笑顔とは違う。無理していないか兄として心配になるが、これもレンなりの処世術のようなものなのかもしれない。確かに親衛隊が暴徒化するとめんどくさいだろうし、それなら普段から手綱を握っていた方が便利だろう。
ケイは俺と同じぼっちのはずなのだが、全然纏う雰囲気が違う。刺すようなオーラが常に出ていて、少し近づき難い。クラスメイトからも遠巻きに見られているようだが、その視線に剣呑としたものはなく、どちらかと言えば隠れファンが多いクール系男子といった印象だ。俺もケイもぼっちなのに、俺はすごい敗北感あるのはなんでだろう。というか兄として情けなくない? 俺。
まぁそんな情けない俺のことはどうでも良いとして、実を言うと俺の受験勉強があったから、こうして二人を見るのは約一年ぶりだったりする。もう既に入学してから一ヶ月近く経っているからさすがに慣れてきたが、入学当初はなかなか二人を見ることに慣れなかった。
二人とも顔つきも体つきも成長していて、兄として喜ばしい。
さらに嬉しいことなのだが、ケイはワイシャツの上にパーカー、レンはベストを着ていた。
それのどこが嬉しいのかって?
どっちも俺がこの前の誕生日にあげたものなのだ。
二人が兄弟だって隠してるということを知った俺は、二人に少し色味の違うグレーで無地のベストとパーカーをそれぞれに贈った。
これだったらお手軽にお揃い感を味わえるかなって。なんやかんや俺たち三人、全員お揃いとか好きだから。ケイとか素直に言わないけど、お揃いの服着てると少し嬉しそうにしてるし。てか実際今着てるし。
ちなみに俺も、似たようなグレーのカーディガンを着ている。なんとなくお揃いっぽい感じもしなくもないが、別にグレーで無地のベストとかパーカーとかカーディガンとかそこら中にあるので、指摘されることもないだろう。
弟たちに対して、兄として接することができないのはかなり堪えるものがあるが、こうやって弟たちが俺のあげた服を着ているのを眺めているだけで、少し満たされたような気持ちにはなる。
正直すごく抱きしめて撫で回したい欲に駆られるのだが、兄弟だと隠すことを条件に学園への受験の許可をもらったわけだし、それは控えなければならない。あと何より弟たちに心配をかけるような兄にはなりたくない。もう既に心配かけている気もしなくはないが、まだセーフライン。うん。
心の中で欲を抑えるために御託を並べていると、ばちりとレンと目が合った。
少し母さんに似たタレ目が笑うと細められて、三日月のような形になり、普段はそれほど目立っていない涙袋がぷっくりと浮かび上がる、超絶可愛い天使スマイル……と思いきや、全然そんなことはない。
レンが今浮かべている笑顔は、まさにみんなの理想とする優等生のような爽やかイケメン笑顔だ。
いや、これでも良いんだ。これでも十分良いんだが、俺が見慣れているあの笑顔を見れないのは少々苦しい。
そんなレンは周りにいた生徒へ二、三言言葉を交わし、机の中からノートを取り出した。
そのノートを持って、俺の方へ軽く小走りしてくる。
「若松くん!」
「……竹村くん? どうかした?」
ひどく他人行儀に俺のことを呼びかけたレンに対して、俺も同じように「あまり話したことのないクラスメイト感」を出して返事した。
その竹村くんは、「このノート出しても平気?」と俺に持っていたノートを差し出した。
ノートの表紙には「古典」と書いてある。あぁなるほど、そういえば昨日は珍しくレンが課題を忘れてたっけ。確かあのとき、先生は「それなら明日持ってきて日直に渡しておいてくれ。明日の日直は確か若松だったよな? 受け取った課題届けにこいよー」と言っていたはずだ。ちなみに古典の先生は担任の先生である。ホストのような外見をしているが、俺的には良い先生だ。え? パシられてるじゃんって? まぁまぁまぁ。色々あるんだよ。
俺はレンからノートを受け取ると、口パクで「また今夜」と言った。それに対し、レンは軽く頷く。
そのとき、ほんの一瞬だけレンの表情が綻んだ。俺のよく知る笑顔だ。ガチ可愛い。ガチ天使。
そのままくるりと後ろを向くと、そこには、レンと同じようにノートを持ったケイがいた。言わずもがな、ケイも昨日の課題を忘れたのだ。同じタイミングで忘れ物をするとか、三つ子というのは通じ合っているものなのか。俺は忘れなかったんだけど。
「……若松」
「うん」
それだけで俺らはノートのやり取りをし、俺はレンと同じように口パクで「また今夜」と言った。ケイもまた先程のレンと同じように首肯すると、踵を返す。踵を返した寸前に見せた笑顔は、あの俺が先程思い浮かべたレンと同じ笑顔だった。本当に俺の語彙力では言語化できない可愛さだ。可愛すぎて今なら酸素なくても生きられる。
ケイは父親譲りのツリ目だが、レンと同じ可愛らしい笑顔だ。三卵生と言うだけあって、二人とも顔は全然似ていないが、笑顔だけはそっくりである。俺も笑顔だけなら弟たちと似ているらしいが、元の顔の形が違いすぎて、弟たちの笑顔は破壊力がえげつない。
俺と話すだけで天使級の笑顔見せる弟たち、もれなく可愛すぎない?
口元を慌てて袖で隠し、緩む口元を頑張って引き締めようとすると、チャイムが鳴った。
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