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「つかきざむ、その髪と眼鏡邪魔じゃねぇの? 今くしぐらいなら持ってるけどいる?」
「あー、叔父さんから眼鏡とカツラ取るなって言われてんだよ、ぶっちゃけカツラ蒸れるし眼鏡重いしめんどい」
「いやそれカツラなのかよ」
朝のショートホームルームが終わった後の休み時間、俺は体を後ろに向けてきざむと話していた。俺が聞くと、きざむは声を潜めて返す。バレちゃいけないことなのだろうか。
周りの生徒たちは俺たちの方を見ながらヒソヒソと話していた。大方陰口でも叩いているのだろう。
「あ、そうだ。永寿」
「なんですかー?」
「お前の寮の同室、梅木って奴だから。ほら、あそこの一番前の席で堂々と寝てる奴」
「分かりました!」
あぁ、そういえば確かにケイと同室だと昨日聞いていた。ケイは先生ときざむの会話が聞こえていたようで、ふらりとこちらに寄ってくる。
「寝るのは授業が始まるまでっすよ」
「そっちから来てくれるんだったら話は早いな。梅木、お前も転校生の面倒一緒に見てやれよ。せっかく同室なんだし。ほら、案内役がぼっちの若松だけだと色々心配だろ? 何より若松も外部生だし」
「え、先生さりげに酷くないですか??」
「仕方ねぇな……」
やれやれとした表情で呆れたようにそう言ったケイだが、言葉の端々がわずかに弾んでいるのが分かる。可愛いやつめ。
「おお、お前カッコいいな! てかこの学園顔良いやつしかいないんだな! ……あ、ごめん今の撤回!」
「おい! そっくりそのままブーメランだっつの!」
ケイを見て驚いたようにきざむは言うが、言ってる途中で俺の顔を見て正気に戻ったらしい。失礼すぎるけどそれはそうだし、共学っぽいこのノリに、そうそうこれだよなと俺は懐かしくなっていた。
反対に、カッコいいと褒められたはずのケイは何故だか不満そうな表情を浮かべている。俺としては弟が褒められることは普通に嬉しいんだけど。
「……オレは梅木ケイタ。よろしく、永寿」
「おう、よろしく! なんて呼べば良い!?」
「好きなように呼べば」
「じゃあよろしくケイタ! そっちもきざむで良いから!」
「おー……」
ブンブンと握手する二人を眺めて、俺は一人でニコニコしている。ケイもどれだけクール男子と言ったところでぼっち系男子であることには変わりないし、共通の友達ができるのは良いことだ。
さて、これで合法的に俺とケイが話すことで変な勘繰りされることは無くなったと思うが、もう一人の弟であるレンはどうしているのだろうか。
ちらりと横目でレンの姿を探せば、レンはこちらの方をチラチラと見ていた。
側にいた先生は、俺の視線を辿るようにしてレンへと行き着く。小さい声で「あいつあんな顔すんのか」と呟いていた。それもそのはず、現在のレンはいつも浮かべている爽やか笑顔とは違う、少し不満そうな顔をしていたからである。
微々たる変化だが、親衛隊にバレないか心配になる。それをいち早く察した先生が、レンにも声を掛けた。
「竹村、お前も学級委員長だし付き合ってやれ」
「分かりました!」
元気な返事をし、不機嫌そうな表情から一変して笑顔になったレンを見て、少し安心した。幸いにも周りは特に気にしていないようだ。てかころりと表情が変わるうちの弟、真面目に可愛くないですか?
まぁ俺の私情はともかく、レンとも一緒にいれるのは嬉しいことだけど、先生からの指名とは言え大丈夫なのだろうか? 親衛隊とか。
現在は教室の雰囲気を見る限り、きざむへのヘイトの方が大きそうだが、前の席の友達ってだけで俺もなんらかの被害には遭うかもしれない。というか確実に遭う。
いや別に俺が被害に遭うこと自体はまぁまぁまぁって感じなのだが、弟たちにそれで心配をかけるのは嫌だ。俺が被害に遭って、いくらお前たちのせいじゃないって言ったところで弟たちはきっと自分を責め続けるだろうし、お互いに良いことない。
さて、どうしたものかと俺は眉間を揉んだ。
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