あの船に二人で

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*****  琥珀色の照明でライトアップされた、涼しい夜風の吹き抜ける海辺のレストラン二階のテラス席。  今日は貸し切りにしたので客は俺ら二人だけだ。 「本当においしい」  美味(うま)いものを口にした時の常でロラははしゃいだ様子だ。  先月二十二歳になった俺より半年遅く生まれたから、こいつは二十一だ。  まだ二十一なのか、もう二十一なのか。  今は考えないことにする。 「ここで食べられるなんて夢みたい」  手にしたグラスに半分以上残ったシャンパンの泡を相手はエメラルド色の目で見詰めた。  ロラのこの目はスペイン人の父親譲りなのだそうだが、クラブ勤めだった母親のお腹にいる時に生みの父は本国に帰ったきり一度も会ったことはない。  まあ、母親がクラブのウェイトレスで父親がいないのは俺も一緒だけど。 「昔は裏のゴミ箱から喰える(もん)競争して探したしな」  すぐ殴り合いをして、でもすぐ仲直りもしたあの頃が酷く遠く思える。 「あの頃はその日を生き抜くのに精一杯だったね」  金の耳環を着けたロラの横顔は飽くまで穏やかに続けた。 「ぺぺと一緒だから怖くなかったけど」  返事をする前にふわりとラヴェンダーの香りがしてロラは立ち上がった。 「今度は二人で船に乗って旅行したいな。豪華客船の広間で踊るの」  真っ赤なヒールの足でまるでクラブにいる時のように踊り始める。  テラスの琥珀色の灯りが豊かな暗褐色の髪を、ゴールドの服を纏った細身の体を、滑らかな薄褐色の肌の肩を照らし出した。
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