あの船に二人で

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「ごめんね、ぺぺ」  バスルームから出て来たロラはエメラルド色の瞳をいたずらっぽく細めると、ルージュを厚塗りした唇から真っ白な歯を覗かせて笑った。  浅黒い小さな顔の脇でイヤリングのゴールドの輪が光の尾を引きながら揺れる。 「ちょっと化粧直すのに時間がかかっちゃって」  確かにルージュのみならずマスカラもチークもいつもより濃く施されている。  波打つ豊かな暗褐色の髪にはまるで塗り込むようにムースが掛けられており、好んで着けているラヴェンダーの香水も心なしか普段より強く匂ってきた。 「いいんだ」  本当はまだ洗い立ての髪にあどけなさの残る素顔の彼女の方が好きだが、今日はこれからレストランのディナーに行くのだから致し方ない。 「綺麗だよ、ロラ」 ――ボーッ……。  窓の外から船の汽笛が遠く響いてきた。  ドンが用意してくれたこの海辺の家の部屋には時折思い出したようにこの音が聞こえてくるのだ。
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