偽物と罵られた聖女は水の精霊に抱きしめられて雨を降らせる

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 編み込んで後頭部にまとめていた淡い金髪を解くと、髪を留めていた髪飾りを両手でぎゅっと握りしめる。  金色のそれは神へ祈るための魔導具で、アンナにしか扱うことのできないものである。 「……雨よ、降れ」  しかし、空に変化は起きない。 「雨よ降れ!」  今度は声を張る。しかし、何も起きない。  アンナに異変が起きたのは一月(ひとつき)ほど前のことだった。祈っても祈っても、天候を変えられなくなったのである。一切雨が降らなくなり、大地は乾き、民は飢えはじめた。  何度も何度も祈ったが、アンナは死にゆく国に対して何もできなかった。  無力な己を呪えば涙こそ出るものの、アンナを嘲笑うかのように、空には雲ひとつ現れない。 「……ごめんなさい。ごめんなさい……」 「しかたのないことです。貴女は何も悪くありません」 「えっ?」  アンナは顔を上げた。  すると目の前には中性的な顔立ちをした、長身痩躯の男性が立っていた。艶のある長い白髪をひとつに束ね、同じような色合いのローブを身にまとっている。足は、裸足だった。 「貴女の手にしている髪飾りは、偽物です。聖女の魔力と反応して神と会話できる本物の魔導具は、あの男がすり替えて奪ったのですから」 「えっ? えっ?」
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