偽物と罵られた聖女は水の精霊に抱きしめられて雨を降らせる

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 人前でアンナのことを抱きしめない。  それらがふたりで決めたルール。  裸足だと目立つので、アンナはアクキューアへ靴を買った。  髪色に似合う白い革靴で、編み上げ紐の結び方は覚えるまで何回も教えた。  ある日、ふたりが食堂で向かい合って座っていたときのこと。 「何を見ているんですか」 「いえ、あなたって意外と、好き嫌いが多いなって思っていたの」  アクキューアの器の上には、見事に色の濃い野菜だけが残されている。 「……味が濃すぎるんです」  アクキューアは眉間に皺を寄せた。  元々、人間の食べ物を口にする習慣はなかったらしい。  水の精霊は水さえあれば永遠に生きていられるのだ。  人間とは違う。こんなとき、アンナはアクキューアが自分と違うことを実感する。 「そういうことにしておくわ」  この精霊は時々子どもっぽい。ふてくされてしまわないように、アンナは追及するのをやめた。  「だけど、食べる仕草は、国王さまよりきれいね」  するとアクキューアは虚をつかれたように朱色の瞳を見開いた。  瞳孔が縦に開くので、人間より爬虫類に近い存在なのかもしれない、とアンナは思う。 「貴女は時々、おかしなことを言いますね」 「おかしなことなら、アクキューアには敵わないわ」
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