夢は夢のままに

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夢は夢のままに

 突然だが、皆さんは一人暮らしをしてみたいと思ってことがないだろうか。勉強しなさいと親に怒られない環境や夜遅くまで友達と遊んだりできる環境、夢を見るなら隣の部屋のかわいい先輩から料理を作ってもらうなど、それぞれの自分の理想の情景が浮かんでくるだろう。俺もそうだった。未知のことへの期待は想像しやすいほど、欠点に目がいかなくなってしまう。しかし、現実は氷菓子のように現実は甘くできていない。一人暮らしに憧れている人が盲目になりがちなのが、お金の振り込み、家事、洗濯、掃除など、挙げてしまえばきりがない。そんな面倒ごとでも、始めて数週間は何もかもが新鮮で楽しく感じるが、時間とともに自力でしないといけないのかよ、というダルイ思考に変わってくる。今までどれだけ親に迷惑を掛けていたかが良くわかるし、本当に親には感謝しなければならない。そんな生活をしていると現在の状況から目をそらすように得意の妄想を始めてしまう。家に帰ったらかわいくて綺麗なメイドさんがご飯を用意してくれていて、掃除から洗濯まで済ませてけれている状況を。まあそんなこと、死に戻りできる異世界か、お金をティシュのように扱える金持ちになる以外あるわけないけどな…………。  そんな妄想をしながら建物付近の歩道を歩いていると、建物同士の隙間にある薄暗い人通りのない場所で女の子と目が合う。その子は暗い夜空に浮かぶ一番星くらいに白い肌が浮いていて、地毛と言わんばかりに根本から生えている青い髪をボブにして整えている。街中でモデルのスカウトに合っていてもおかしくないくらい、非常にかわいらしい女の子が正座をしていた。彼女の着ている白い素肌を強調する用に両手両足が露出したメイド服を完璧に着こなし、控えめな胸元に黒で飾ったちょうちょのようなリボンが美しさではなくかわいさを強調する。背座している彼女に目を奪われてしまい、カメラマンもいないのに映画の撮影かと、心のどこかで勘違いしていた。しかし、これが仮に映画だとしたら売れ行きは完全に赤字であろう。なぜなら彼女が正座している場所は時代劇で使われるような畳でも、お姫様の足を痛めない様に配慮されたクッションでもない、彼女は資源ごみから漁ったような、書かれている内容がばらばらの段ボールの上に正座していた。極めつけは、彼女の左膝あたりにある「拾ってください」、と書かれた三角柱の側面で立てられている段ボールが台無しさを通り越して惨めさを感じさせる。俺はあまりの衝撃に歩みを止めて、その場に立ち尽くすことしかできなかった。異世界美少女奴隷が主人公で、今まで散々こき使ってきた主人に復讐するアニメの実写化の撮影か?それにしては衣服だけはいいものを使っているから世界観が合わない。もしかして捨てられメイドの復讐劇の方か?いや、カメラマンもなしにそんなことはするはずがない。もしかしてかわいいけど売れていないアイドルが体を張って名前を売ろうとしているとか?もし演技や企画でなくて本当に寂しい思いをしているだけだとしたら…………………………。  普通の人は見ず知らずの人に話しかけるのは抵抗を感じるかもしれない。俺の中では大学付近の街を歩くことは冒険に等しい。旅の恥は掻き捨てというように、冒険中に見ず知らずの人に話しかけて恥をかいても一期一会となるため、大した損はしないと思っているからである。だから、俺は躊躇なく彼女の方に歩みより、彼女に向ってそっと声を掛ける。 「すみません、こんな薄暗い所に女の子が一人でいて大丈夫ですか?今は暑いですが、それでも風邪をひきますよ?」  俺は彼女に対してして下心なしで、本気で気遣ったつもりだ。しかし、見方によってはナンパに思われる心配があるかもしれないと、内心ヒヤヒヤしながら返答を待つ。すると、彼女は思いのほか元気よく答える。 「あっ、私風邪を引いたことがないから。う~~ん、顔はまずまずってところね。それに、下心なしで女神のようにかわいらしい私に対して、下心を持たずに近づいてきたことは評価してあげるわ。そうね~~。百点中六十点て所かしら。いいわ、私があなたのメイドになってあげる」  彼女はすっと立ち上がりながら、そう告げた。しかし、元気のいい彼女に対して安心するとともに、心の中は穏やかでない。モデルにスカウトされない理由はこれだったのか~~。いきなり俺の採点始めだしたけど、やっぱり何かの企画かもしれないが、確かにメイドは喉から手が出るほど内に来てもらいたい。それにいくら元気でも一人でほっておくことはできないな。それにしても、俺が思っていたメイドのイメージとかけ離れた子だな。いや、待てよ、今考えたら問題がある。 「ごめんけど、俺人に時給出せるほどのお金をもってない……」 「ああ、大丈夫。お金はいらないから、三食飯付き掃除付きの家に泊めてもらえばいいから」 「それだとメイドとしての機能を果たしてないじゃん」 「かわいいメイドが側にいればそれでいいでしょう?」 「それだと役割がぬいぐるみとほぼ変わらいだろ」  何を考えているんだこのメイドは?もしかしてかわいければ何でも許されると思っているのか?しかも、ぬいぐるみと違って食費掛かるから、ぬいぐるみより需要がないかもしれない。 「ぬいぐるみのようにわたしを抱き枕にしたいということかな?それはちょっとあなたでは役不足でしょ。なんなら顔不足だね」 「顔不足の言葉か適用されるのは、デュラハンかのっぺらぼうだけだと思うぞ」  なんだよこいつ。メイドのくせに煽り性能高すぎじゃないか?こいつがうちに来ると考えると、一週間もしない内にストレスで禿げそうだ。やはり、俺の想像しているメイドは想像の中で終わらせた方がいいのかもな。でも、それだと彼女は一人ぼっちになってしまう…………。 「デュラハンは顔ではなく、頭が不足しているものですよ?もしかして本当にデュラハンなんですか?」 「うん、その会話の流れだと頭が悪いと言っているのかな?」 「私の力を借りないと正解にたどり着けないようでは、デュラハンはおろか脊髄にも勝てませんよ?」  彼女にはメイドというよりも冥土のほうがあっているかもしれない。確かに、脊髄には脳みそと違って、物事を考えるほどの知力がない。しかし、捉え方によってはプラスに変えることもできるのだ。 「脊髄ってことは暑い時などに無意識の内に起きる反応反射をするから、判断力があるってことでいいかな?」 「未だ、私がメイドをすることのちゃんとした回答を先延ばしにしているあなたには脊髄さえももったいなかったようですね。」  屁理屈の言い合いなら負けないそう自負していた。ここは完璧な返しをしたと自覚していた。だから、俺は自信満々に彼女の返答を待つことができたが、冥土の力は俺なんかでは相手にならないらしい。 「やっぱり、メイドの話はなしに…………」 「負け犬に発言権があると思っていらっしゃる?それとこれからはメイドとして便宜上、敬語を使いますが、カースト的には私の方が高いので私に対するありとあらゆる願望は禁止です。でも、私の命令は聞きなさい」 「暴君か?というか、もうメイドとして機能してないじゃん」 「それでは近いうちにご主人様の元へ赴きます。」  彼女はそう言って颯爽と帰っていく。都合の悪いところは聞こえない耳をしているらしい。まあ、いいや、俺の住所を聞かずに帰ったんだ。家までの道のりを知らないいんだ。嫌な予感がするけど、大丈夫だろう………………きっと、そう願ってる。  これからは見ず知らずの人でも話しかける相手はしっかりと選別しよう。俺のコミュ力が少し低下したのであった。            
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