加速度

1/6
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 始まりは彼女の何気ない一言だった。  大学生になってできた友達が続々とサークルに入っていく中、俺だけが部活に入った。男女混合で規模数は中くらいの卓球部。中高と卓球をやっていた俺は、大学でも引き続き卓球をすることを決めていた。そして入部してすぐに彼女──沢井(さわい)美沙(みさ)と出会った。  決して顔が可愛い訳じゃないし、喋りが上手い訳でもない、平均より高い身長のある、普通の女の子。男勝りな性格で、よく笑う。でも本当は繊細で、根が真面目だから物事を引きずりやすい。口が軽い。噓が下手な正直者。そんな彼女を意識し始めたのは、美沙の何気ない一言からだった。 「ねー康太(こうた)。ずっと言いたかったんだけどさ、私たち毎日遭遇するよね?」  部活帰りに何人かでご飯に行った時に、美沙がそう言った。先輩たちとも一緒だったので、学校近くにある小さな居酒屋での話だった。辺りは騒がしく、先輩たちと一年生数名が酒を飲んでいたので俺たちの席も盛り上がっていた。本当は駄目だけど、偏見としてわりと多くの大学生が20歳になる前から酒を飲んでいると思う。でも個人的に外では飲んでほしくないな、と俺は思っていた。飲むんだったら家でこっそり飲んでほしい。  段々と酔いが回っていく中、コーラで場酔いし始める一年生もでてきて、なかなかにカオスができあがっていた。俺は美沙の目の前に座りながらウーロン茶を口に含み、素面の彼女と話していた。 「それな!」  食い気味に相槌を打つ。ずっと言おうと思っていたが、なかなかタイミングが合わずこの話題をすることができずにいた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!