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「光北、絶対優勝だぞ」
「応援してるぞー」
「生田、ホームラン打てよ!」
バスを降りてから、歩くたびに、聞き取れないほどの声が降り注いでくる。僕たちは会釈しながら歩く。
正直なところ声をかけてくれる人たちの多くは、名前も知らない、それどころかおそらくは会ったこともない人も多い。
「若月くん、頑張れー」
同じ制服の生徒にも声をかけられるが体育科の僕には、普通科や理数科の生徒はほとんどわからない。
それでも、僕はこんなにも多くの人たちから期待されているということはわかった。
ここにはいないけれど、この試合に勝ち進むまでに敗れていったチームの思いだって背負っている。
今頃スタンドにいるであろう一緒に切磋琢磨してきたがベンチ入りすることができなかった仲間の思いだって背負っている。
三年間、僕も必死でここまで生き残ってきた。
今、目の前にある勝負に集中しなければ、壮希にも、応援してくれるみんなにも、すべてに失礼だ。
「生田」
僕は前を歩く生田に小さな声で呼んだ。
「なんだ?」
生田が振り返った。
「大丈夫だ。オレは油断なんてしない。雨なんて降る必要はない。今日、壮希に勝って、甲子園に行く」
僕がそう言うと、生田は一度だけ頷いた。
「頼むぞ、若月」
「1点もやらない。だからそっちは1点取ってきてくれ」
「ああ、任せろ」
生田と僕はグータッチを交わした。
少し涼しい風が吹いて、僕は空を見上げた。
抜けるような青い空を見ていると、胸がすくような気持ちになり、僕は球場へと、決勝へと向かった。
今日、僕は壮希に勝って、もう一度甲子園へ行く。
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