エースは決勝に向かう

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*  就寝時間となり、僕は部屋の窓から外の様子を伺う。  降り出した雨は、まだ降り続いていた。この様子ならば明日は中止になったりするのかもしれない。 「寝ないんですか?」  同室の一年生・井上がベッドに寝転んだまま僕にに声をかけてきた。 「いや、もう寝るよ」 「若月さんでも決勝となれば緊張するんですか?」 「なんだよそれ」 「だって若月さん、春は選抜でベスト4でしょ? 県大会ぐらいなら緊張しないのかなって」  たしかに、僕は春の甲子園のマウンドで投げた。  二回戦では完封勝利も果たした。そして、準決勝も先発で登板した。  しかし、コントロールを乱した僕は焦りのあまり、更に乱れていき、失点を重ねた。みんなが反撃し、一点差まで追い上げてくれたが敗れた。  甲子園に忘れ物をしたまま、僕はこの夏を迎えている。 「あ……すいません、オレなんかまずいこと言いました?」  僕が何も返さなかったので、井上は気にしたようだった。 「いや、そんなことないよ。春のリベンジは、たしかに甲子園に行かないとできないからな」 「若月さんなら大丈夫です。明日も勝ちましょう」 「雨が止んでたらな」  窓越しにも雨の音は聞こえる。  雨よ、降れ。このまま降り続けろ。  僕は心の中で祈った。  壮希は今頃、どうしているだろうか。あいつも雨を願っているだろうか。  少し蒸し暑い室内のベッドで僕は横になり目を閉じた。
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