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就寝時間となり、僕は部屋の窓から外の様子を伺う。
降り出した雨は、まだ降り続いていた。この様子ならば明日は中止になったりするのかもしれない。
「寝ないんですか?」
同室の一年生・井上がベッドに寝転んだまま僕にに声をかけてきた。
「いや、もう寝るよ」
「若月さんでも決勝となれば緊張するんですか?」
「なんだよそれ」
「だって若月さん、春は選抜でベスト4でしょ? 県大会ぐらいなら緊張しないのかなって」
たしかに、僕は春の甲子園のマウンドで投げた。
二回戦では完封勝利も果たした。そして、準決勝も先発で登板した。
しかし、コントロールを乱した僕は焦りのあまり、更に乱れていき、失点を重ねた。みんなが反撃し、一点差まで追い上げてくれたが敗れた。
甲子園に忘れ物をしたまま、僕はこの夏を迎えている。
「あ……すいません、オレなんかまずいこと言いました?」
僕が何も返さなかったので、井上は気にしたようだった。
「いや、そんなことないよ。春のリベンジは、たしかに甲子園に行かないとできないからな」
「若月さんなら大丈夫です。明日も勝ちましょう」
「雨が止んでたらな」
窓越しにも雨の音は聞こえる。
雨よ、降れ。このまま降り続けろ。
僕は心の中で祈った。
壮希は今頃、どうしているだろうか。あいつも雨を願っているだろうか。
少し蒸し暑い室内のベッドで僕は横になり目を閉じた。
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