三章 動き出す僕ら

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三章 動き出す僕ら

「灯ーここのフリ教えて!」  ダンススタジオを経営している彼女の両親の知り合いに頼み、泊まり込みで練習をする日々が続いている。忙しく息をつく間もないけれど人生史上最も充実している日常だった。 「右からターンして止まる時に胸を張る!手は私と反対方向に伸ばして……」  アイドルを追いかけていた彼女はダンス経験はないものの振り付けから曲の掴み方まで完璧だった。 「珠莉はせっかく黒髪が綺麗だからターンする時に生かしてほしい」 「こう……かな?」 「そうそう!でももっと大きく見せてほしい!」  鏡越しに映る自分たちを見ながら必死に魅せ方を吸収する。 「ねぇ珠莉この映像見て。ここ!この指先を見る目線の感じこれを再現してほしい!」  ふたりでステージに立つということは安易なことではない。人数が少ない分ステージ上で個々が際立って見られることになる。 「確かに……これくらい拘らないと『あのステージ』では見てもらえない」  『あのステージ』私たちが目標としている場所は 「一年後、立つんでしょ?」  一年後に開催される個人アイドルオーディションへの出場。大手レーベルの代表者が主催するそのオーディションは優勝すれば『Night angel』の所属する事務所との契約が確約される。そんなチャンスを懸け立つステージは  『ステラドリーム』  あの日みた夢の景色への挑戦を無駄にするわけにはいかない。 「私はもう無駄にしたくないから」 「灯の夢も私の夢も叶えてみせるから」  ふたりの覚悟は生半可なものではなかった。 決意を交わして数ヶ月。今振りを練習している曲自体、何度も衝突を繰り返し改変しながら創り上げた曲だった。作詞作曲からふたりで行いプロの手は一切借りていない。何かに勝つことよりも『ふたりで夢を叶える』ことを第一に今日まで活動してきた。 「ねぇ灯」  約束の日まで丁度一年の今日。私はどうしてもやりたいことがあった。 「ん?」 「この紙に書こうよ。ふたりの目標」  鏡越しにお互いの顔を見る。迷うことなく動くペンに全てを願いを込める。  『誰かに輝きを宿すアイドルになる』  『自分に負けない自分になる』
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