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中は意外にも温かかった。寒天質の大きな岩のようなものが、ごろごろと積み重なっている。その隙間を埋めるように、桃色の液体が底に溜まっていた。
十匹ほどのサンキャクが、サギのように浅瀬を歩いている。動物学者は息を潜め、物陰から麻酔銃を構えた。
銃声が響いた。サンキャクたちが逃げ惑う。命中した一匹は動きが鈍くなり、やがて液体の中に伏せてしまった。
静かに近付き、ひざまづく。体の造りを初めて間近に見て、二人はぎょっとした。
サンキャクには、目も耳も鼻もなかったのだ。まるでのっぺらぼうだ。消化器官もひどく退化していて、物を感じるための舌と、歩くための脚だけが発達している。動物学者は戸惑った。
「生物の個体にしては、あまりにも単純すぎます。こんな体では、ひとりで生きられるはずがありません」
「やっぱり、この島はおかしいぞ」
植物学者が呟く。動物学者は、おそるおそる顔を上げた。
「私も、森を形作っている生物を調べて、同じことを思ったんだ。どんなに調べても、花のような生殖器官が見当らない。葉のように見える部分も、光合成ができる造りにはなっていなかった。もしかすると、この島は――」
その時、二人の背後で物音がした。振り返って、彼らは震え上がった。
暗がりに、白い影がうずくまっていた。サンキャクに似ていたが、遥かに大きい。脚のあいだに生えたワニのような口で、コウモリに似た生き物をむさぼっている。
それは二人に気付くと、彼らに襲いかかった。白い触手をにゅるりと伸ばし、動物学者の頭に絡みつく。彼の髪の毛が、二、三本抜けた。抜けた髪の毛を食べている隙に、二人は大慌てで宇宙船に乗り込み、惑星から飛び立ってしまった。
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