遺品鑑定士 ツゲル

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 人は無意識のうちに様々な物に触れる。自動ドアやエレベーターのボタン、買い物かごなんかもそうだ。それらに触れながら、ツゲルはココの痕跡を辿った。不特定多数の記憶が宿る物から特定の記憶を見つけるのは本来至難の業だったが、今は不思議と簡単に探り当てることが出来た。ココの残像を追いかけるようにしてスーパーへ来て、二週間前にココが使っていた買い物かごを片手に陳列棚を回る。  ミニトマト、バジル、しめじ、真鯛、アンチョビ、パスタ……。  左手に買い物リストを持ちながら、右手で買い物かごを撫でる。安くて嬉しい、高くて残念、そんな細やかなココの感情までも感じ取れた。確かに彼女は生きていたのだ。時の流れに埋没した彼女の痕跡は、もうツゲルにしか見ることは出来ないが。  追いかけ、追いかけ、追いかける。彼女が辿った末路を見届けるため、彼女が行くはずだった道の先へ想いを届けるため。 『うっ、痛た……』  レジの列に並んでいる時、ココが呻いた。くも膜下出血の前兆だろうか、鋭く頭痛がしたようだ。単なる疲れだろうとココは気にしなかったようだが、もしこの時すぐ病院に向かっていれば、彼女の命運は変わっていたのだろうか? 「沢渡さん、沢渡さん!」  気づけば隣にモトムが立っていた。モトムは半ば奪うようにして買い物かごを取り、レジに置いた。 「ずっと呼ばれてたんだぞ。気づかなかったのか?」 「すみません」 「力を使っている間は周りのことが疎かになるんだろう。そんな状態で外を出歩かれると、依頼した俺としても迷惑だ」 「ですが、レシピを見つけないと……」  手早く会計を済ませ、清算済みの買い物かごを持って移動する。よく見ればモトムは女物の鞄を手にしており、食材を詰めるマイバッグも女性が好みそうな柄をしていた。 「あの……」 「ココの痕跡を辿るんだろう? だったら当日ココが持ってた物が必要になるはずだ」  食材を詰め終えたマイバッグを差し出し、モトムは続ける。 「周囲のことは俺が見る。貴方は調査に集中してくれ」 「ありがとうございます。凄く助かります」  実際マイバッグがあったことで救われた。食材を買いにスーパーに行くことは予想がついたが、その後の行動を探る手段は見つけるのに苦労しそうだと思っていたのだ。
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