遺品鑑定士 ツゲル

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 電車とバスを乗り継ぎ、モトムの暮らすマンションに来る。家の中はこざっぱりとしており、壁際のタンスには夫婦が写った写真立てが並べられている。一見すると綺麗だが、床の至る所に埃が溜まっており、しおれたお悔やみの花がテーブルに置かれている。半月近くもまともに掃除されていないようだ。 「では調査を始めます。リビングにある物には全て触れても?」 「ああ。好きにしてくれ」  まずはダイニングテーブル、買い物リストが書かれた場所に触れる。テーブルは四人がけだったものの、モトムもココも座る場所がなんとなく決まっていたようだ。その日あったことを話しながら食事をし、のんびりとテレビを見て過ごす。当たり前にあった夫婦の日常、永遠に続くと思っていた幸せな日々が見えた。  モトムの席へ手をスライドさせると、水底のような暗い感情が流れてきた。ココの死を深く悲しみ、ここで夜な夜な何度も泣いていたようだ。力を使って読み取った感情は、まるで自分の物であるかのように心に突き刺さる。閉じた目から零れそうになる涙をぐっと堪え、手をココの席へとスライドさせた。 『えーっと、買うのはこれでいいかな?』  本のページを後ろからめくるように、現在から過去へ時間をさかのぼる。およそ二週間前まで戻ると、ご機嫌で買い物リストを書くココが見えた。更に前日までさかのぼると、ココはスマホ越しに誰かと話していた。手元には買い物リストを書きつけた物と同じメモ用紙の束がある。 「メモ用紙はどこにありますか?」 「壁際のサイドテーブルだ。妻は何でもそれにメモしていた」  メモ用紙はまだ開けたばかりのようで分厚かった。触れてみると、溢れんばかりの喜びが流れ込んできた。 『レシピを教えてもらえるなんて夢みたい! ありがとうございます! 五年前の味を再現出来るように頑張ります!』  電話しながらココが書いていたのは料理のレシピのようだ。集中してみたが、擦りガラス越しのように文字がぼやけて読み取れない。 (メモ用紙を持ってココさんが移動してる。この先はココさんの部屋か?)  記憶の中のココを追い、閉じられたドアの前に立つ。モトムは怪訝な表情を浮かべた後、渋々部屋のドアを開けた。一礼し、足を踏み入れる。
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