遺品鑑定士 ツゲル

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 ココは外へ出た後、テーブルクロスを買いに近くの雑貨店へ向かったようだ。しかし途中で耐え難い頭痛に見舞われ、バス停のベンチに座り込んだらしい。  ツゲルはベンチに座り、座面に触れる。ココはあまりの頭痛に吐き気すら覚えていたようだ。さすがに救急車を呼ぶべきかと、ココはスマホを取り出した。 「大丈夫か? 顔が青いぞ」 「力を使うと、苦しみや痛みまで伝わってきますので……。ココさんはここで倒れたんですね」 「具体的な場所までは知らない。ただ街中で倒れているところを救急搬送されたと」 「そうでしたか……」  頭痛が激しく、電話をかけることもままならないほどココは苦しんだらしい。ツゲルはベンチをさすりながら、深呼吸して耐えた。 「やめたらどうだ。死に至るほどの痛みなんだろう? 貴方が経験する必要はない」 「私のことはいいんですよ。あと二時間もすれば全て忘れてしまいますから」 「忘れるからどんな思いをしていいなんてことがあるか! ここまでしろなんて言ってない。何故赤の他人のために頑張る?」 「貴方に届けたいからですよ。置き去りにされた記憶を私が読み取って、持つべき人に渡すのが私の使命なんです。真実を告げ、想いを()げる、それが私が力を得た理由なのだと思いますから」  ツゲルは語る。この力は生まれついて持っているものではなく、後天的に得たものなのだと。四年前、まだ大学生だったツゲルは車にはねられ、奇跡的な生還を果たすとともにこの力を手に入れた。生かす代わりに神様から使命を与えられたかのように。 「郵便屋さんが届ける手紙の中を覗かないように、私は他の方が持つべき記憶を保持してはならないのです。全て忘れる理由はそれでしょう」 「貴方は人が良すぎる。力を使わなければ記憶を失わずに済むんだろう? 自分の時間も、精神も犠牲にするなんて」 「そんな風に思ってくださるモトムさんも、十分お人好しだと思いますけどね」  記憶の中でスマホケースに挟んでいた身分証とメモ用紙がバサッと落ちる。ココは拾おうとしたが、風が吹いて一枚の紙が飛んで行った。どうやらあれが紛失したレシピのようだ。ツゲルはベンチから立ち上がり、モトムの方へ振り返った。 「ありがとうございます。出来ることなら、貴方の優しさは忘れずにいたかった」  バス停を離れ、近くの小さな公園へ。記憶を頼りに公園の植え込みを探すと、雨水に濡れてシワシワになったレシピのメモが見つかった。 『ごめんね、モトム……。夜の約束、守れなくなっちゃったかも』  ベンチで気を失う直前にココが口にした言葉を思い出す。ツゲルはレシピを撫で、静かに呟いた。 「大丈夫ですよ、ココさん。貴女が届けられなかったものは私が届けます」
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