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「せめて、襲われたらそのまま死ぬんならいいのに……」  肌は緑色じゃない。体が腐り落ちてもいない。見た目は映画やゲームとだいぶ違うのに、「彼らに傷を負わされたらゾンビになる」設定はそのままのようだ。  境内で女性ゾンビに食い散らかされた青年はしばらくして起き上がり、玉砂利に赤黒い血の跡を引きながら、ふらふらどこかへ歩いて行った。  通りはいまやゾンビだらけで、人間の姿がほとんどない。放置された車のドアや窓ガラスは破壊され、中には荷物と血の跡だけが残されている。生存者は安全な屋内に避難しているのだと、思いたかった。 「あの……っ、あ、すみません」  夫に似た背中を見かけ、橋の上で思わず声をかける。が、ゆらりと振り向いた彼は全くの別人──いや、別ゾンビだった。首の肉が大きくえぐられたせいで不安定な頭を揺らし、うつろな目で川を眺めている。  襲いかかってくるゾンビもいるが、凶暴な個体ばかりではないらしい。道端に座って動かない者、徘徊している者。症状が進めば、もしくは空腹になれば人を襲うかもしれず、油断はできない。でも、からのベビーカーを押して歩く若いゾンビの姿には、胸が痛んだ。
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