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「僕はこれからも、麻耶子さんを全力で守っていくつもりです」  我が家の居間でそう言った傭平くんに、夫がグラスの麦茶をぶっかけたのは2ヶ月前のことだ。普段は穏やかな人だから驚いた。けれど、私も少し、胸がスッとした。  何が「これからも」だ。今まで麻耶子を守ってきたのは私たち──いや、むしろ母親(わたし)だ。酔っ払いにからまれた麻耶子を彼が助けたのがなれそめだとは聞いたけれど、知り合ってまだ2年、しかも、結婚を認められなかった腹いせのように娘を妊娠させた男が言っていいセリフじゃない。 「ひどいわ! 彼がどんな気持ちであいさつに来てくれたと思ってるの!?」  椅子を鳴らして立ち上がり、麻耶子がバスルームからタオルを取ってくる。娘にどなられた夫は苦しげに目を細め、わなわなと唇を震わせていた。 「人殺しの気持ちなど分かるか!!」  父親の怒号にゆがんだ麻耶子の顔を、表情の消えた傭平くんの顔を、私はたぶん一生忘れないだろう。  その一言で、娘は生まれ育った家を出ていった。  怒りのあまり口がすべったのか、言うべくして言ったのかは分からない。でも、夫の心にもがずっとわだかまっていたのだな、と、私は密かに安堵した。
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