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傭平くんは、大きな体で柔和な顔つきの好青年だった。だからこそ、余計にゾッとしたのだ。中学時代に実の父親をバットで殴殺したという彼の過去を聞かされたときには。
「お母さんが失踪してから、彼と妹さん、ずっと虐待されてたらしいの。事件の日も、泥酔したお父さんが妹さんを殴ってて、それで……でも少年院には入ってないし、もちろん前科もついてない。彼すごく真面目だし、何より、隠しておける過去をちゃんと話してくれたことが、誠実さのあらわれだと思うの」
麻耶子の言うことは正しい。偏見のない女性に育ってくれたと、誇らしい気持ちもある。が、大切な一人娘を殺人者に任せられるかと聞かれれば、答えはNOだ。
小さな町工場で働く彼は、非正規雇用で給料も低く、生活力に欠ける。結婚を認めない理由として、娘にはそう話していたけれど。
私が傭平くんを家族として受け入れられないのは、彼の過去──というより、その内に秘めた闇が恐ろしかったからだ。妹を守るためとはいえ、家族を手にかけた彼の凶暴性。それがいつか麻耶子に向けられないとは限らないではないか。
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