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「麻耶子……」
娘の顔を見たのは、怒って家を飛び出したあの日が最後だ。
無事を確認したいのに、ゾンビから逃げる途中でスマホを落としてしまった。バッグも失くし、靴は脱げ、服もぼろぼろだ。
でも、行かなくちゃ。
真夏の太陽に熱せられたアスファルトを裸足で踏みしめる。不思議と痛みは感じない。
むせかえるような血の匂いと、腐りゆく屍肉が放つ悪臭。百万人都市に停滞したそれらを、生ぬるい風がもったりとかき混ぜている。
徐々に群青に染まっていく空には、一番星が輝いていた。
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