こんな姿で失礼します

3/7
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 カメラマンがよほど慌てたのか焦っていたのか、ブレブレの映像が沼田ゾンビをズームしてしまう。  身体は腐ったゾンビでも、顔だけは沼田議員のままで、白濁した瞳はアンバランスでいっそう不気味だ。 「グギギ!グギグゲゴ!」  沼田ゾンビは、キョロキョロと誰かを探しているような素振りを見せていたが、ゾンビの醜悪な姿に慄いてしまった防衛大臣を見つけると、一目散に駆け出した。 「ガキガキ……ガギゲー」  伊藤多香子防衛大臣(53歳)は、首相肝いりの若手大臣だ。自分に迫ってくる沼田ゾンビに、美しい顔が歪んでいた。 「沼田の狙いは伊藤大臣だ!大臣を守れ!」  ゾンビ防衛SP隊が、伊藤大臣を守りながらシェルターに逃げ込むと、沼田ゾンビはターゲットを見失いおとなしくなった。  テレビの前で、この一部始終を見せられた国民は、口を押さえてトイレに駆け込んだ。特に女性。こんなにはっきりとゾンビのアップを視たのも、それに追いかけられる映像が流れたのも初めてだった。 「今の、どう思う?」  ポテトチップスを食べながら、千春(ちはる)は青い顔をして吐いている親友のルミに顔を向けた。 「どう……って……怖いし、悲しいし……」 「沼田ゾンビが?」 「千春!よく平気でいられるね!」  沼田千春(ぬまたちはる)は、沼田ゾンビの娘であり、ルミの大切な親友でもある。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!