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カメラマンがよほど慌てたのか焦っていたのか、ブレブレの映像が沼田ゾンビをズームしてしまう。
身体は腐ったゾンビでも、顔だけは沼田議員のままで、白濁した瞳はアンバランスでいっそう不気味だ。
「グギギ!グギグゲゴ!」
沼田ゾンビは、キョロキョロと誰かを探しているような素振りを見せていたが、ゾンビの醜悪な姿に慄いてしまった防衛大臣を見つけると、一目散に駆け出した。
「ガキガキ……ガギラブゲー」
伊藤多香子防衛大臣(53歳)は、首相肝いりの若手大臣だ。自分に迫ってくる沼田ゾンビに、美しい顔が歪んでいた。
「沼田の狙いは伊藤大臣だ!大臣を守れ!」
ゾンビ防衛SP隊が、伊藤大臣を守りながらシェルターに逃げ込むと、沼田ゾンビはターゲットを見失いおとなしくなった。
テレビの前で、この一部始終を見せられた国民は、口を押さえてトイレに駆け込んだ。特に女性。こんなにはっきりとゾンビのアップを視たのも、それに追いかけられる映像が流れたのも初めてだった。
「今の、どう思う?」
ポテトチップスを食べながら、千春は青い顔をして吐いている親友のルミに顔を向けた。
「どう……って……怖いし、悲しいし……」
「沼田ゾンビが?」
「千春!よく平気でいられるね!」
沼田千春は、沼田ゾンビの娘であり、ルミの大切な親友でもある。
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