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人生は驚きの連続 ( 木戸さん編 )
「私達別れましょう」
「分かった。じゃあな」
付き合って半年の彼女に振られた。
理由は家に上げてくれないからだと言われたが、上げない理由を知ってるくせに意味が分からない。まぁ縁がなかったんだと了承すれば、私よりあの子を取るのね! と、何故か泣き叫ばれた。
過去の彼女達の顔がよぎる。
このやり取りはもう何度も繰り返しているので次に出て来る言葉はだいたい想像がついた。
「十も下のあの子がそんなに大事ならあの子と結婚すればいいのよ! このロリコン野郎が!」
やっぱりな。
振られた上にガチギレされる状況に周囲の目が痛い。ついでにあらぬ疑いと頭から酒をかけられ激怒したいのはこちらの方だ。
怒る前にさっさと背を向けた元彼女は、言い逃げやり逃げ散々飲んだ伝票も置いて帰って行ったけど。
店員におしぼりを貰い、金を払い、全身から発する酒臭さに眉を顰められ、どこにもぶつける当てのない苛々を抱いたまま帰宅すれば中は真っ暗で、おかえりお兄ちゃん、の声はない。
時刻は十一時。
仕事カバンを思い切り放り投げた。
「なん、だ……コレは」
電気を点けまくり探して呼んでスマホをかければ静かな家に響いた着信音。
音のありかを辿って発見したスマホは、リビングのテーブル上で添えられた紙の横で踊っていた。
お兄ちゃんへ
ずっと黙っていたけど結婚したい人が出来たので家を出ます。幸せになるので安心してね。
理沙より
「安心できるかーーーーっ!!!」
読んですぐ引き裂いた。
ぐっちゃぐちゃに丸めて床に叩きつけた。
理沙はまだ15歳だぞ?!
結婚って何だ!
未成年なんだぞ?!
腹立たしさと不安と心配でどうにかなりそうな気持ちを、水をがぶ飲みして落ち着ける。
思えば、兆候はあったのだ。
少し前から様子がおかしかったのだ。
それを見逃していた。
思春期だもんな、で流してしまった自分のバカさ加減に後悔しかない。
捜索願いを出そう。
理沙のスマホと床に転がった紙クズを拾って警察に赴けば、
「血は繋がってないんですよね? 本当の親御さんと連絡つきます?」
胡乱な目で上から下まで見られた挙句、
「最近、こういう犯罪流行ってるんですよね。SNS繋がりって言うのかな。未成年の家出娘を自宅に監禁する事例が増えてまして」
ここでもロリコン変態野郎の疑いをかけられて、理沙を探すはずが俺が探られる羽目になってしまった。
何とか身の潔白は証明出来たが、一緒に住んでいた家から理沙が居なくなった事実はよからぬ疑惑を残すのに充分だったらしく、本当の親御さんとまた来て下さいと、捜索願いは受理されなかった。
理沙の親の連絡先が分かればそうしてる。
いや、マトモな親だったらそもそも俺なんかと2人で住む事はなかったのだ。
理沙の母は元から知らない。
理沙の父は俺の母と再婚したが、暫くすると理沙を置いて愛人と消えた。
俺の母も昔から惚れっぽく、運命だと熱を上げ貢いでは捨てられての繰り返しで、理沙の父の次に出来た男とこれまた消えていた。
バカバカしい。
愛だの恋だの自分の尻も拭かずに子供を振り回す。俺はいい。慣れているし自分で生きれる力を持っている。
でも理沙は?
理沙はまだ子供だ。
親が保護しないなら義理でも兄の俺が守ってやらなければ。
妹というより娘に近い感覚で大事に大切に育てて来たというのに、どこのクソ野郎が理沙を騙くらかしたんだ!!
未成年に結婚をエサに家出を唆した外道は見つけ次第ぶち殺す。
執念と怨念と殺意で残されたスマホを手かがりに、地道な捜索を始めて一年が経った頃、とうとう理沙の相手を突き止めた。
一ノ瀬 大志
どんな詐欺師かと思えば理沙の一つ上のクソガキで、大きな志しという名前を裏切るただの不良少年だ。
現在住居は友人宅を転々。
明日、急用で一時的に実家に帰るらしい。
場所は特定した。
一年の間に腹の中で煮詰まり熟成された恨みつらみは爆発寸前。
おイタが過ぎるヤンチャも今日までだ。
引導を渡すべく怒りのまま古い木造のドアを蹴り上げた。
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