第二章:僕たちの罪

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 「こんなの、怪我のうちに入りませんよ。 いまは大袈裟にガーゼが貼ってあるけど、家 に帰ればカットバン一枚でOKです」  「そうは言っても、やっぱり申し訳ないで す。命を助けてもらったお礼もしてないのに、 この上付き添いだなんて……」  「じゃあ、こういうことにしませんか?」  尚も食い下がる彼女に僕は人差し指を立て、 茶目っ気のある目を向けた。  「僕はあなたに辛い過去を聞いてもらって とても心が楽になった。だからこれは僕から のお礼です。僕の心の傷を受け止めてもらっ た代わりに、今度はあなたを支えさせてくだ さい。大丈夫。こう見えて僕は頼りになるん です。万が一、この手紙を送ったのがお兄さ んだったら、僕がとっちめてやりますから」  両手で拳を作ってファイティングポーズを 見せる。と、彼女は納得したのか目を見開い たのち、ふわ、と頬を緩めた。  瞬間、とくりと鼓動が鳴って胸が熱くなる。  たったいま彼女が見せてくれた顔は、やは り、笑みと呼べるほどのものではなかったけ れど。だからこそ僕は彼女の笑顔を見たいと 思ってしまう。『彼女に笑って欲しい』、そん な思いが、この一瞬で心に芽生えてしまった。  「じゃあお言葉に甘えて。よろしくお願い します」  頬を緩めたまま、彼女が慇懃に頭を下げる。  と同時に、ガラリと病室の戸が開いてカー テンの向こうから看護婦さんが顔を覗かせた。  「卜部さん、点滴終わってますよね?」  「あっ」  そのひと言に僕たちは視線を交わし、肩を 竦める。すると、何を勘ぐったのか看護婦さ んがしたり顔を僕に向けた。  「お邪魔なようならまた出直しますけど?」  冷やかすようにそんなことを言うので、僕 は思わず「いえっ、抜いてください!」と声 を上げてしまった。  僕たちは看護婦さんが針を抜いて去ってゆ くまで、なぜか居た堪れない空気の中で過ご すことになったのだった。
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